第9話 卒業したって何もいい事ありゃしない

高校を卒業して大学進学のため郷里を離れることになった僕。僕が離れると同時に、みんなの心も離れていき……あぁ、結局「生徒会」とは僕にとってなんだったのか。


「それ」は急に訪れた。

高校の卒業式から、大学の入学式まで、一ヶ月ほど時間があった。

その間に、僕は、まるでジェットコースターのような経験をする。

地元に残る友人たちは、それぞれの進路を歩み始めていた。


ある日、生徒会室に立ち寄った。もう、ここに来る理由はないのだが、なんとなく足が向いた。

会長とテツローちゃんがいた。

「おう、久しぶり」とテツローちゃん。

「北海道、いつ発つの?」と会長。

「来週」と僕。

「そっか。がんばれよ」

会長はそう言って、僕に手を差し出した。握手。

「お疲れ様。向こうでも元気でな」

「……今生の別れじゃあるまいし。大袈裟じゃね?」 僕は言った。

「北海道行っても、頑張れよ」とテツローちゃん。

「互いにね」

――これが、生徒会メンバーとの最後の会話になるとは思っていなかった。


実は、僕は、「他校との交流会」で仲良くなった女性がいた。

彼女は別の高校の生徒会役員で、定例会で何度も顔を合わせるうちに、僕は彼女に惹かれていった。副会長同士、立場が似ていたからこそ、話しやすかったのかもしれない。

しかし、その女性は、僕の友人の彼女だった。最初から完全なる「負け戦」。僕は諦めるしかなかった。

友人も彼女も二人は地元に残る。そのまま付き合える関係だった。そして僕は地元を離れて進学。

色恋沙汰で進学先を変更する理由は、僕にはカケラもなかった。


ところが、友人は志望進路に進めず、浪人することになった。彼女は第二志望に進学するという。

北海道行きの準備をしている時、電話がかかってきた。友人の彼女からだった。

「……合格おめでとう……」

「ありがとう……」僕はそうとしか答えられなかった。

だが、次の彼女の言葉に絶句するしかなかった。

「……行かないで……」彼女が電話越しに言った。

――一体、何を言っているんだ?

僕は、頭が真っ白になった。

――あなた、彼氏いますよね?で、その彼は「僕の友人」ですよね?僕は、ここを離れますよね?あなたに、僕を「引き留める」理由ないですよね?

僕は彼女の言葉に喜ぶよりも、呆れが先に来てしまった。

僕は北海道に行くのだ。彼氏持ちの女性と遠距離恋愛をしろと?こっちは、北海道へ行くことで忘れようとしているってのに。

反射的に僕は電話を切った。なんとも言えない嫌悪感が僕を襲ったのだった。


北海道行き当日。

空港に向かうバス乗り場に彼女がいた。

バスに乗り込もうとする際、彼女に袖を掴まれた。

「寂しい。行かないで」

はぁ?お前には彼氏がいて、浪人が決まったそいつを支えるのが役割だろ。ここを離れる僕のことなんて忘れろ。

と、無言でその手を振り払った。

乗り込むと同時にバスのドアが閉まる。

バス亭で一人泣く彼女を置いて、僕を乗せたバスは空港へと向かった。

――この失恋を糧にして、大学でがんばらなければ。

僕はそんな風に格好つけていたのだった。

……実のところ、その後、彼女とは、幾度か泥沼を経験することになるのだが、その頃の「純真な」僕には、そんなことは予想できていなかった。

そうして、僕は進学のために北海道へと旅立ったのだった。

風の便りで、友人と彼女がよりを戻したことを知ったのは、しばらく経ってからだった。


しかし、悪事千里を走る。というか、この「個人的な話」が、なぜか、同期応援団メンバーと応援団OBに流れていた。噂話好きな連中は、僕の話を聞きたがった。僕は「超プライベートな話」をネタにはされたくなかった。当然、反発をする。

「なんだよ、つまんねーなぁー」電話口で元団長が言う。「もう、誘わねぇぞ?」

「どうぞご自由に」僕は言った。他人のプライベートな事柄について、ネタとして面白がろうと思う連中なんて、こっちからお断りだ。

そうして、僕と応援団との縁は切れたのだった。

応援団での日々は、正直、きつかった。でも、先輩たちと一緒にエールを送った体育館の熱気や、新入生歓迎会で後輩を守った時の緊張感は、今でも覚えている。

それでも、「せいせいした」と思ったのは事実であった。


大学に入学し、寮生活が始まった。

そして、時がたち、大学二年生になったとき、大学の寮でなぜか自治会の役員になっていた。口説き文句が「高校で生徒会の経験があるなら適任だね」ときたもんだ。どっから聞いたんだよ、それ。

結局、他の友人連中がサークルや合コンで楽しんでいる間、僕は大学に入ってまで、大学の寮の自治会の仕事をしているのだ。なんということなのだ。自治会の仕事が不規則なせいもあり、バイトにすら行けない。

それを電話で高校時代の友人に愚痴ったら、こう言われた。「あんた、嫌々言ってるけど、本当は好きなんじゃないの?そういう仕事」笑い声が電話口から聞こえる。……そんなの、好きなわけないだろう!

結局大学三年まで、自治会の役員は続いた。そして、大学四年生で卒論を書くための研究室配属の戦いの後、配属後の研究室の座長も僕がすることになった。お前ら、何かの役員とかリーダーを選ぶとかになると、どうして僕を選ぶんだ!

――あぁ、本当に、生徒会になんてなるもんじゃない。


<続く>


次回:第10話:「ジャンケンになんて負けるもんじゃない」

なぜ、僕は生徒会と密接に関係した応援団に入ることになったのか――「生徒会役員」前口上物語。

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2025年12月11日 20:00 毎日 20:00

「生徒会役員」になんてなるもんじゃない。 いわん・うぃすきー @Ivan_Whisky

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