第8話 打ち上げなんて行くもんじゃない
受験も終え、卒業式も終わらせた僕。その打ち上げでいわれたクラスメイトからの衝撃の一言。「君の名前、なんだったっけ?」生徒会を一年続けても――僕は自分の存在感の無さに打ちひしがれる。
応援団も、生徒会も、文化祭実行委員も全て終え、僕は、ようやっと「受験勉強」に集中できるようになった。
それまでも、予備校主催の模擬試験を受け、自分の能力の位置は把握していたつもりだった。なにせ、生徒会で忙しかった頃には、記述模試の物理で「7点」という得点を叩き出していたのだ。学内順位もワースト10を記録したこともあった。生徒会で忙殺されていた頃は、学業はそのくらいダメダメだったのだが、それが今では普通に80点超えである。学内順位も上位10%まで上昇した。忙しいなりに、勉強を怠ってはいなかったのだ。「国立理系現役技合格」を3年生当初の三者面談で、担任と賭けたのが大きかった。その賭けに負けるつもりは微塵もなかったのである。もはや「意地」であった。
共通テストを乗り越え、前期日程は憧れの大学、後期日程で本命の大学を受験した。
その結果。なんとか、僕は志望大学に現役合格することができたのだった。
卒業式。日程的に受験から戻ってきてすぐであったため、バタバタしすぎでどんな風だったか、実はよく覚えてない。とりあえず、ダブルのスーツで行ったら、やたら囃し立てられたことは覚えている。僕以外、みんな、普通のスーツだったのだ。
あと、卒業式後、最後にテツローちゃんと記念撮影したことを覚えているくらいだった。何しろ「合格発表」前である。心の底から力は抜ける状態ではなかった。
卒業式後、その日の夜に「卒業おめでとう打ち上げ会」を行うことになっていた。待ち合わせ時間に遅れないように出かける準備をする。ダブルのスーツは着ていかなかった。
僕が、指定の店についた頃、もう結構人数が集まっていた。「飲み物、何にする?」と幹事に問われる。
「じゃあ、烏龍茶で」と僕は言った。
「うん。わかった……って、名前なんだっけ?」
その言葉に僕は愕然とした。彼とは席も近く、何度も話していた事があったのに。応援団で、かつ生徒会の副会長までやっていた僕の名前を、卒業祝いの打ち上げの際まで、同じクラスの人間に覚えられてないとは、どういうことだ。
「――だよ」動揺を表さないように告げたつもりだった。でも、多分に僕の動揺が伝わったのだろう。その日の打ち上げは、幹事の彼とは非常に気まずい状態だった。
……しかし、クラスメイトにも名前を覚えられてない僕って……
さすが、僕は落ち込んだ。ダメダメにも程があるだろう……。
打ち上げ会そのものは、普通に友人と楽しんで、ごくごく「普通」に終わった。教師の見回りに見つかるか、という一抹の不安はあったが、それも杞憂だった。
――先生方、気を遣ってくれたんだろうか?
なんてことを考えたりもした。その程度には僕たちの学年は他の学年と比較して、素行があまりよろしくなかったのだ。おそらく、誰もが気にはしていただろう。
しかし、翌日の朝は酷い状態だった。これまでの疲労がドッと出たのか、朝から具合が悪すぎた。それでも、今日、進学で東京に行く友人を見送るために、無理をして出かけた。その状態の僕を見て、母は「途中で倒れるんじゃないか」と思ったそうだ。そのくらい顔色がヤバかったらしい。
結局、体調が悪すぎて友人を送る時間に間に合わなかった。見送るはずの新幹線のホームには、既に友人たちは誰もいなくなっていた。僕は、そのまま、体力が回復するまで駅のベンチで横になり、一人寂しく帰路についた。
……あとで、あいつに謝らないとな……。
あとで聞いたのだが、友人の彼女が別れの辛さのあまり、ホームで泣きじゃくって大変だったそうな。
「なんで来てくれなかったんですか。本当に大変だったんですから」
と、僕は、彼女の友人に怒られたのだった。
――本当に、打ち上げなんて行くもんじゃない。
<続く>
次回:第9話:「卒業したって何もいい事ありゃしない」
卒業して大学進学のため郷里を離れることになった僕。僕が離れると同時に、みんなの心も離れていき……あぁ、結局「生徒会」とは僕にとってなんだったのか!
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