第7話 壇上になんてあがるもんじゃない
応援団も生徒会も文化祭実行委員も何もかも終え、やっと大学受験に集中できるようになった僕。その僕に意外な依頼が。「三年生代表として壇上に上がれ」――先生、それは前会長の役目だろうに!愕然とする僕。
「お前、次の全校集会、休むなよ?」
ある日、担任に声をかけられた。
「……なんでですか、先生」
休む予定ではもちろんなかったが、なぜ改めて確認をするのだ。僕は訝しんだ。
担任がこういう時は「ロクな事がない」のは経験的に知っていた。
案の定、担任は続けた。
「県から贈答品を貰うことになった。お前と高橋が代表として壇上で受けとれ」
――やっぱり! 僕の嫌な予感は的中した。
「……先生、それって、会長が適任なんじゃないですかね?」
僕は必死に抵抗した。
応援団も生徒会も引退した今、壇上なんて上がりたくもなかったからだ。
「何言ってんだ」 担任は僕の抵抗を簡単にはね返す。
「お前、生徒会でも文化祭の実行委員でも陰の仕事ばかりで目立ってないから、最後に目立たせようって言ってるんだ」 ――先生、それ、余計すぎる気遣いです。
僕はそもそも目立ちたくなどないのだから。というか、今期の予算折衝でのやりとりで、各部の部長の間では「怖い人」って既に「悪い意味で」目立っているんですけど。その意味で、もう十分です。その「怖い人」が代表として壇上に上がってもダメじゃないのかなぁ?
……と、いくら言っても無駄だった。結局、会長をではなく、僕とテツローちゃん二人が三年生代表として壇上に上がることになった。
そして、当日。
もう冬も近く、寒かった。
我が校の体育館は無駄に天井が広いので、余計に寒い。
生徒たちがぞろぞろと体育館に入ってくる。
みんなコートを着用していた。もちろん僕も。
――こんなに寒いのに、なんで体育館でやるんだ……
僕は心の中で愚痴った。
なんの贈答品だったかは覚えていない。
ただ、その日は寒く、コートを手放せなかった。
贈答品を受け取るだけだ。スピーチもない。
これまでのことと比べたら、楽な事ではあった。
僕はそのまま、コートを着て登壇した。
すると、遠くから――
「コートを脱げ!」
いきなり担任の怒鳴り声が聞こえた。
――え?寒いから着ているのに……
なぜ、怒鳴られなきゃならないのだ。
でも、うだうだゴネてもしょうがない。
僕は壇上でコートを脱いだ。 寒い。
体育館のどこかから、笑い声が聞こえる。
――またしても、嫌な目立ち方をしてしまった……
そして、僕は、三年生代表として、贈答品を受け取った。
まだ笑い声が聞こえる。 一体、なんということでしょう。
その後、テツローちゃんの番。
彼もコートを着て登壇した。
案の定、担任の怒鳴り声。
「高橋!コートを脱げ!」
しかし、テツローちゃんは僕とは違った。
颯爽とコートを脱ぎ捨て、それをクルリと回す。
「おおおお!」
体育館から歓声が上がる。
――なんだ、この扱いの違いは……
僕は呆然とした。
ま、確かにテツローちゃんの方が華があるしなぁ。
実際に「コーヒー牛乳を購買に!」と公約を宣言し、それを実行した人は、やはり人気がある。
僕とテツローちゃんとでは、やはり「格」が違ったのだ。
……ってか、これなら、テツローちゃん一人で良かったと思うんだけどなぁ。なんで、僕までも壇上に上がる必要があったのだろう。
――本当に、壇上になんてあがるもんじゃない。
<続く>
次回:第8話:「打ち上げなんて行くもんじゃない」
受験も終え、卒業式も終わらせた僕。その打ち上げの飲み会でいわれたクラスメイトからの衝撃の一言。「君の名前、なんだったっけ?」生徒会を一年続けても――僕は自分の存在感の無さに打ちひしがれる。
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