あの時助けた蜘蛛が恩返しにやってくる。
カンダタの蜘蛛の糸然り、蜘蛛をやたら殺生するのはよくないのかもしれない。ある種、あまり好ましい見た目じゃない分、そういった物語に映えるのがこの生き物の特性なのだろうか。
清貧とでもいうべきか、質素に生きてきた男のもとに、ある種報いるように現れた美女。時間をかけて心を通わせた二人は一時の幸せを手にする。ところが、それをよしと思わぬ存在が現れて……
本作が特にユーモラスなのは、やはり美女として現れる蜘蛛の積極性や、思い切った行動をさっと決断する力強さだと感じる。
おとぎ話のような柔らかな質感に、ちょっとした不気味さ、そして彼女の性格が、この短編に強烈な個性を与えているように思う。
不思議な馴染みやすさを持ちつつも、確かな個性を鮮烈に持つ素敵な短編です。
人間に化けた動物が助けられたお礼をしに来る、という話は昔話でよくあるけど、本作は蜘蛛がお礼をしに来る話ですね。
皆さんは蜘蛛に対してどんなイメージを抱いているでしょうか?
人によっては怖いとか気持ち悪いとか、感じるかもしれませんね。しかし本作を読めば、その印象がいい方向に変わるのではないかと思います。
本作はまず、アレクシスという漁師が、水たまりで胡桃色の蜘蛛が溺れそうになっているところを発見するシーンから始まります。
蜘蛛を助けると、その日の夜、美しい女性がアレクシスの家を訪ねてきます。
彼女はクラウディアという名前で、なんとアレクシスが助けたあの蜘蛛が人間に化けた姿だという。
クラウディアはお礼がしたいということで、毎日兎や鹿などを彼の小屋に届けに行くようになると、だんだん二人の仲は深まっていき、やがて結ばれることになります。
おめでとう、お幸せに……と思いましたが、順風満帆とはいかず、障害が立ちふさがります。
それを乗り越えられるのかどうか……後は実際に読んで確かめてみてほしいです。
この作品は雰囲気がとてもよくて、実際にこんな昔話がありそうだなと思わされました。文章も表現力が素晴らしく、丁寧で読みやすくもあったので、是非読んでみていただきたいです。
人間によって助けられた生き物が人の姿となって恩返しに来る、という物語。形を変えながら世界中で愛される古典的で美しい物語ですが、本作では「蜘蛛」という誰しもが良い印象を持っているわけではない生き物をモチーフとしたのが珍しいでしょうか。
森で猟師として一人暮らすアレクシスという男性が、水たまりで溺れている小さな胡桃色の蜘蛛を助ける場面から物語は始まります。その場面では、多くの人が普段、蜘蛛に抱きがちな不気味な要素はなく、むしろとても可愛らしい描写をされているところに驚き、そこから早速、物語に引き込まれました。
蜘蛛はクラウディアと名乗る美しい乙女となって、アレクシスとともに仲睦まじく暮らし始めるのですが、順風満帆とはいかず、やはり邪魔立てが入ります。途中では衝撃的な展開もあって、固唾を呑んで最後まで読ませていただきました。
そして物語の最後に記されたメッセージは、蜘蛛という生き物に対する見方そのものを、あらためて考えさせてくれるものでした。格調高く、まるで宝石のように色彩豊かな文章でつづられた、ひとえにとても美しい物語でした。
『――これはまだ、いたるところにあやめも分かぬほんものの闇があり、月はそのぶん皓々こうこうと光り輝き、岩のような熊から芥子粒けしつぶほどの蟲むしまでもが、ときに人語を解し摩訶不思議な力を持っていたころのお話です』
この冒頭の一文が一気に太古の『魔法が息づく世界』へと引き込みます。
また古き良き御伽噺のように紡がれていく文体と格調高き美しさのある描写によって読者は緩やかな流れに乗って心地よく古典の世界へと導かれていきます。
そして『動物の恩返し』という古典的なテーマをベースにしながらも、異種族間の愛というロマンスの要素を深く掘り下げていき、やがて主人公のクラウディアに容赦のない過酷な試練が訪れクライマックスを迎えます。
『本物の愛』を守りぬくためにはいったいどれほどまでの勇敢で強固な覚悟が必要なのか。
この作品はそれを雄弁に語る『種族を超えた愛と試練を描いたファンタジーロマンス』です。
出だしから愛おしく思えて仕方なくなって、二人の幸せを願いたくなる。そんな物語でした。
主人公である猟師のアレクシスは森の水たまりで小さな蜘蛛が溺れそうになっているのを見つける。すぐに助けてやると嬉しそうな仕草をする蜘蛛。
その夜、助けた蜘蛛が美しい少女の姿になってアレクシスのもとに現れる。二人は一緒に暮らし始めて幸せな時間を送るようになるが……。
ヒロインであるクラウディアは、蜘蛛の変身した美少女。この設定がまずとても目を惹きました。
人間の美女に化ける蜘蛛というと、基本的「女郎蜘蛛」とかがベースの妖艶なイメージが強いものです。
対して、本編に登場するクラウディアはもとがハエトリグモというちょこちょことした印象のある生き物。そして変身する姿も少女、という柔らかなイメージが強い。
本作はとにかく、二人が純粋なのが微笑ましいです。クラウディアはもうアレクシスが好きでたまらないし、アレクシスもクラウディアを心から大事に思っているのが伝わってくる。
だからもう、絶対に幸せになってほしいと気付けば見守る気持ちが芽生えることに。
そんな二人が最終的にどのような結末を迎えるか。それは本編を紐解いて確かめてみてください。
読めばあたたかい気持ちになれ、「蜘蛛」という生き物に対してももっと優しくしてあげようという想いが芽生えてくる。そんな優しい目線で紡がれた作品でした。