深い文章力から紡がれる、あるオタク視点からのデジタルコンテンツ史

あのインパクトが訪れるまで、自分はただの「ゲームやアニメなどのサブカルが好きなだけのガキ」だったかもしれない。
さほど大きくもないサイズのディスプレイに、たった一本のネット回線、そして広がる無限の世界。
インターネットとの接触だ。

初めはフラッシュ動画による面白コンテンツだ。
これをゲートウェイドラッグとして、自分は以降ネットの虜となる。
やがて、ゲームコミュニティサイトに辿り着き、そこで表現の場と機会を得、承認欲求を形作っていく。
そして、決定的となったのがニコニコ動画だ。
初めはその怪しさから「違法ダウンロード動画サイトなのでは」と危険視していたが、いつしかゲーム実況にのめり込み、やがて公式配信というクリーンで安全な手段でのアニメ配信を毎シーズン楽しむようになった。
就職活動で打ちのめされ、生きる気力を削がれた時も、アニメの続き見たさに生にしがみついた。
Twitterを始めとしたSNSが台頭し、流行りのコンテンツを通じて友人と呼べる間柄の人たちも増えた。
就職し、知識を付け、自分も動画を作って投稿したりした。
一人暮らしを気にBTOでハイエンドのタワーPCを購入し、エロ漫画やフィギュアを物欲のままに購入することも覚えた。
拮抗していたニコニコ動画とYouTubeの関係はいつしかぶっちぎりでYouTube優勢となり、「Vtuber」という新たなコンテンツの形を提供し始めた。
いつしかネットを始めとしたデジタルコンテンツ、漫画・アニメといったサブカルチャー文化は、日本を代表する世界のメインストリームとなった。
私は単なるガキではなく、立派なオタクになっていた。

そんな私でも、危険性からその深みに触れてこなかった世界がある。
ネットの深淵に眠る技術、通称「割れ」だ。
様々な建前や自己保身の弁明の下、作者はその深淵へと身を委ねる。
物理的容量、技術的障壁、そして法的危険性。
様々な障害を乗り越えた先に、作者の心境と居場所も時代とともに移ろっていく。

これは、そんなデジタル世界の、ディープなアングラなコンテンツ史である。
相応に知識がある者、そして深淵を除く覚悟のある者にのみ、本作の門戸は真の意味で開かれる。
どうぞ、相応の資格を携えた上で、本作をお楽しみいただきたい。
ディープな世界へようこそ!

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