海底の夢を漂うSF文学。ソングラインを取り入れたセンスに感嘆。
- ★★★ Excellent!!!
かつてSF作家A・C・クラークは、イギリスからセイロン島(スリランカ)へ移住しました。深海に宇宙空間との類似性を見出していたことから、インド洋でのスキューバダイビングに惹かれたためだと言われています。
かくいうわけで果てなき宇宙の闇と同じぐらい、海中はSFと相性が良い。元祖はたぶんヴェルヌ『海底二万里』辺りからはじまると思うのですが、それこそクラークも『海底牧場』を書いていますし、マイクル・クライトン『スフィア』などもあります。映画ではやはりジェームズ・キャメロンの『アビス』『アバター』が外せないでしょう。
こちらの物語も夢の世界の光景ではありますが、海を描いた広義のSFです。雄大なイメージを描写しつつ、SFファンならそこはかとなく過去の名作を連想したくなるような要素が散見されるため、個人的には拝読していて何度か口元が綻びかけました。
しかもそこへオーストラリア先住民のソングラインなる概念が混ぜ合わされ、鮮やかなヴィジュアルが立ち昇る世界観はセンス抜群。見事というほかありません。
それでいて全編を通じ、哲学的とも社会派的とも取れるメッセージが滲んでおり、色々な読み方を許容する懐の深さを感じます。
「文学とは問い掛けであって、答えではない小説を指す」という見解があるそうですが、まさにそれ。大変良い現代SF文学を読ませて頂きました。