循環恋愛
千景 もも
41分
彼女の喉元に線をつくる、美しい体液。
「何飲んでんの?」
部活の休憩時間なんて、どれだけ休んで疲れを逃がすか、休みを引き伸ばすかってことが最優先事項なのに。たまたま隣にドリンクを取りに来た橋本だって、きっとそんなことしか考えてないだろうに。
「……お前と一緒だけど」
何言ってんだよ、てのがすげーわかるよねその顔。後輩が作ったスポドリを部で分けて飲んでんだから。でもなんか、ちがうように見えるんだよ。
「濃さとか。口に残る感じとか、あるじゃんいろいろ」
「うちのかわいいかわいい後輩ズの作ったもんにイチャモンつけんのかセンパイ」
「こえーよ強火担」
んは、と空気を緩めるように笑うこの子独特の柔らかさがさ。生き方とか考え方とか性別とか、それよりもっと小さい違いからでも出てんじゃないかって。
口に含むそれも。恋しそうに求められて、少しの時間も惜しむように取り込まれて、それを当然のような役割として橋本の体内に入り込んでいく。汎用性は高いはずなのに、今回の循環ではこの子の一部になって血になってめぐって、また喉元を通る線のように出ていく。しあわせな一サイクルしてんなって思うんだよ。
だって俺は。俺の形にすらならないきもちは、彼女に届く一サイクルもしてない。
「……あんま、飲みすぎんなよ」
「わかる。お腹タプタプなるよな。でも喉は渇くっていう。あと1、いや3、……じゅっぷんのみたい」
「溺れとけよもう」
そんなに好きならもうその一部になっちまえよクソ。そうしたらいつか。いつか、お前が俺の中に入ってめぐっていくかもしれないのに。
「いや見捨てんなよ。救ってくれ、ひーろー」
茶番のためにわざわざ体力つかってまで寝転んだ彼女が、起こせと差し出してくる手。感情の逃げ場を失って泳いだ目を隠すように笑って、それを掴む。湿って混ざりあった温度と、体液。あ、いま。
「せー、の。あっぶね、俺が倒れる」
「ふざけんな綿菓子のような軽さだろうが」
「いや水っぽい」
「余計わからん例え出すな」
ほら集合、と先に踏み出す彼女。その背中に張り付くシャツを眺めて。視線が逸れた裏で、混ざりあったあの湿り気と熱を思い出す。じんわりと上がっていき、俺の体にも線をつくっていく。ベタついてくさくなるだけのそれ。
「おいおっせぇぞ高木ー!!」
「せっかちかよ」
いつもの軽口を笑うその表情。それだけで、俺のなかをめぐるものが勝手に早くなっていく。
「……やっぱり、ちがうよ」
お前の中にながれる綺麗さとは、全然ちがうただの液体だ。
循環恋愛 千景 もも @8chikage
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