4.残された旋律と永遠の魂
4.残された旋律と永遠の魂
数カ月後。タクミは海沿いの小さなアパートで暮らしていた。
彼は、アオイのボーカルをさらに活かすために、どうしても足りない**「あるコード進行」を、匿名でプロデューサーに送った。それは、愛する人の成功を、影から支え続けるという無償の愛の証明**であり、彼が信じる「光」への献身だった。
その夜、「トリニティ」のアリーナ公演が生中継されていた。タクミは、かつて三人が誓い合った**「白いベンチ」に座り、小さなラジオを聴く。ベンチの隅には、アオイがふざけて彫った「TA」**の小さなイニシャルが残されていた。
アオイの歌声は完璧だ。そして、タクミが匿名で送ったメロディが、新しいアレンジとして流れ始める。
間奏。アオイが歌声に一瞬だけ熱を込めるパートが流れる。タクミはそれを確認すると、ラジオを消した。
部屋には波の音だけが響いた。彼は、その沈黙を破るように静かに自分のギターを取り、ベンチに彫られた「TA」のイニシャルに指先で触れた。
そして、ラジオから流れたメロディの**「裏側」に流れるべきだった、もう一つの、穏やかなメロディを奏で始めた。その音色には、ユウキが削ったはずのハーモニカの温かさが、ギターの音として溶け込んでいた。それは、ユウキの『無償の光』への、「真のアンサーソング」**だった。
一方、アリーナ。ユウキは歓声に酔いしれ、アオイを見ていた。彼の才能は、タクミの自己犠牲と、アオイの孤独な自己暗示によって永遠に支えられている真実には気づかない。彼は、勝利という名の孤独な頂点に立っていた。
アオイは、スポットライトの下で、誰もいない観客席の、遠い影に向かって微笑みかける。その歌声は、ユウキの才能と、タクミの無償の愛によって、永遠の魂を与えられていた。
観客は、その夜の歌声が、なぜか昔の彼らの曲のように、優しく、しかしどこか泣いているように聞こえた、と後に語った。誰も真実を知らない中、アオイの歌声だけが、**「あの白いベンチでの純粋な誓いと、永遠に続き、しかし結ばれない愛」**という切ない真実を、暗に世界に伝え続ける。
🎧 白いベンチの原罪(スリー・ノート・バラード) Tom Eny @tom_eny
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