ぽかりと、穴が開いた。それでも世界は回っていく。

自分は祖父の葬儀の時、青臭くも終始涙を止めることができませんでした。
実質上の父親だったこともあって、思った以上に祖父の事を心の支えとしていたのかもしれません。
ただ、それで何かが変わったかというと、正直なにも大きく変わったことはなかったんですよね。
相変わらず私は実家から離れて暮らしていますし、給料は安いし、外食チェーンの飯は安定して美味いし、ニュースでは熊が暴れまわってるわけです。
私には大きな影響を与えたのに、祖父の死は世界に何も影響を与えてないんだな、と、当たり前のことを思うと、どうしようもない虚しさを感じてしまいます。

何か、あった方が良かったのでしょうか。
故人の生きた証となる、爪痕のような何かが。
それとも、いずれ忘れ去られていくべきなのでしょうか。
いずれ土と混ざりゆく草木のように。
主人公の擦りむいた手の甲と遺骨の入った骨壺の重みとが、故人からの答えを伝えようとする無言のメッセージのように思えてなりません。

多くを語らないが故に読み手にかなりの余地を託した、とても重い作品でした。

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