線香花火

遠山ラムネ

線香花火

「お前ー、告白とかしねぇの?」


と、突然言われた。夜の河川敷で。


「え、は?」


手には線香花火を持っていた。見渡せば、何やらそいつとふたりになっていた。



少し遠くに、クラスメイトたちのはしゃぐ声がする。

そうだ、今日は球技大会の打ち上げで。


うちのクラスは仲がいい。誰かが花火しようと言い出して、すぐ他の誰かがコンビニで調達してきた。あいかわらず、呆れるほどにフットワークが軽い。今日日きょうび、自由に花火ができるところは少ない。探した挙句、こんな街外れの川べりまで、ぞろぞろとチャリを走らせてきた。



とりあえず、なんてことない顔は保ってるつもりだった。このまま素知らぬ顔で流してもよかったし、なに勘違いてんだよと誤魔化してもよかった。

だけどそいつの口調は随分と確信的だったから、あー、バレてんだなと、小さく嘆息した。


「しない。人の彼女に、手ぇだす趣味とかないし」

「あー、そう」


パチパチ、パチパチ、火花が弾ける。

すぐに散ると分かってるのに健気に。


「まぁ、お前がいいなら、いいんだけどさ」


なにを考え込んでるやら、沈黙が落ちる。俺は、終わりそうな自分の花火を見ていた。



「したら俺、いってくるわ」

「え、ええ?」


えええ、今?



聞き返すまもなくすくっと立ち上がって。勢いのまま駆け出す。

足元に、燃え尽きた花火が残されていた。


言ってくるって、だれに?

なんて、聞くまでもないか。


ひとり残されて、急に闇が深くなる。



無謀な友人がバカなのか、ためらい続けた俺が情けないのか。

まあたぶん、後者なんだけど。


みんなの浮かれた声が、ずいぶん遠くに聞こえた。

辿り着けないほど遠く。


喧騒の人影。

結果を携えたあいつは、まだ戻ってこない。



Fin

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線香花火 遠山ラムネ @ramune_toyama

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