第15話 生徒会長防衛戦③


広場に一瞬の沈黙が流れる


その空気を突き破るように、声をあげた


「ルチアさん!!足場!!頼みます!」


「!!」


足元から魔術行使の気配を感じる。先日は恐怖を感じたこれも今なら心強い限りだ。 


氷の柱によって射出された僕の体が、一直線に集団のリーダーへと距離を縮めた


「!?貴様ぁ!!!」


すかさず無数の炎の刃が放たれる


でもそれならさっき、見た


あの思わず身震いしそうな程の火球、この炎の刃も、おそらくそれらの全てが体系化された汎用的な魔術だ。


このことは解析の負担が少ない事からも明らかだろう。


だから、53人から得られた情報があれば、奴らの魔術はほとんど対処は可能だ


体に被弾するであろう悉くをナイフで切り伏せる。


「何なのだ!!お前は!!!」


自身が持つ速さのエネルギーを最大限利用して、彼の顎を蹴り上げた。


今のこの攻撃には身体能力強化の魔術に加えて、ルチアさんの魔術の速度が掛け合わされている。


急所は急所だ


いくら魔力や魔術で体を強化していても、この威力で打たれればひとたまりもないだろう


「きさ…ま、、」


男が力なく膝から崩れ落ちた。しばらくは脳が揺れた衝撃でまともに動くことは出来ないだろう。


男の首元から、何かが足元に落ちた音がした。それは黒いコイン状の塊だった。触ってみると、何やら聞き覚えのあるようなかすれた音が広場に響いた。


これマイクみたいなものか?

丁度いいな



大きく息を吸い込み

詳細なイメージを脳裏に描いた。


僕が最も尊敬する人物のひとり

圧倒的主人公格をもつ、一条君の姿を


これが成功するかどうかは、僕の演技にかかっている


意を決して声を張り上げた。 


「おまら、良く聞け。俺の名はヨム、知ってるやつもいるだろうが、先日生徒会長と一騎討ちをした転入生だ」



ダメだ、もっと自信に裏付けられた力強さを模倣しないと!


「あの戦いで俺は意図的に魔力をセーブして戦っていた。まぁ所謂舐めプってやつだな。あれを見ていたやつなら分かると思うが、最後のあの瞬間、俺は一発確実にぶちこめる状況下で、敢えてあの行動をとった。」



まだだ、もっと

もっと一条君を憑依させろ!!



「つまり、なにが言いたいかって言うとな、俺はもっと公平な条件で、イーブンで戦いてーんだよ。ルチア、お前とな。

だからここで宣言させて貰おう。

俺は英霊祭当日の魔術トーナメントで


「っ!」


いち早く間取読の思惑に気がついた

プラム・スピネルは、学院の放送設備を利用し、彼の肉声を学院中へと拡散させていた。 



「そこでだ、よってたかってランキング上昇を狙おうとする、お前等みてーなハイエナに一つ忠告。たった今から祭り本番までの間、俺は24時間ルチアの側を一時たりとも離れねぇ。当日お互いにフルのコンディションでやりてぇからな」


「!?」


「よって、こいつを狙うのなら、漏れなく俺とも戦闘しなくちゃならないことになる。只でさえ難攻不落、無敵の生徒会長を相手にするのでさえ命懸けなのに、それと同等の力をもつこの俺を相手取らなくちゃいけない。一気に難易度がはねあがったなぁ?」



「あっはー!!マジうけるんですけど。ヨムちゃん別人じゃん」

「でも、これなら―、彼の存在が、抑止力になるかも」



「それに加えて、俺の学内ランキングは1618のドベ。ますますてめぇらカス共の旨味が無くなったって訳だ。そしてこれは最終警告だ、ルチアは俺のもの。それに手垢つけるってんなら容赦はしねぇ」



バクバクと、心臓の高鳴りが最高潮に達しようとしていた。上手く出来ただろうか、一条君のロールプレイ。


いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃないな。取り敢えず千現は済ませた。後はこれを聞いたルチアさんがどういう反応をするかだが、、


恐る恐る目線を彼女に向ける。相変わらずのポーカーフェイスだ。いや、違うな。いつもより確実に目付きがジットリしてる。確実に怒らせてしまった。


まぁでも仕方ない。こうなることも折り込み済みでやったことだし。


フラフラと首を傾けながらルチアさんが歩みを進めてくる。彼女と僕がいる位置は、高さも距離も大分離れていたが、その程度一瞬で詰めてくるだろう。


思わず身構える。飛んでくるのは一瞬。一発目を上手くかわせるがどうかに全てがかかっている。落ち着け、よく彼女をみろ!


ん?フラフラ?あのルチアさんが?


まずい!あの時上空で感じた違和感は間違いじゃなかった。彼女は既に限界だったのだ。


「プラムさ―、」


「よっと」


今にも倒れてしまいそうに見えたルチアさんの肩を、懐に入り込むようにしてプラムさんが支えた。プラムさんの片手には僕と同じような黒いコイン状のものが握られている。


「あ、あー、てすてす。んじゃまぁ、そういうことで、これから祭り当日まではあーし達が四六時中ルチアちゃんにまとわりつくんで、そこんとこ皆さんよろしく~」



少しの風圧を頬に感じて、横をみる。

そこにはルチアさんを両側から挟むように、プラムさんとラピスさんがいた


「よし、いくよ。ヨムちゃん」


僕の隣に飛んできた彼女の手をすかさず握り返し、僕達は演習場の広場から一瞬にして、学院のどこか一室に移動した。


ルチアさんが完全に倒れる前で良かった。彼女は名家としての振る舞いを大事にしているようだったし、学生達の間では史上最強や、当たらずのレイスなんて呼ばれるくらいだ。

多分彼女が地に伏す姿は、誰も見たことが無かったのだろう。


「こんな、こと…頼んでいません」


二人に支えられていたルチアさんが、その手を振りほどき、覚束ない足取りで僕らから距離をとった。


「あのさー、ルチアちゃん。いい加減にしてくんない?そんな今にも突っ伏しそうな顔色しちゃってさー。」


「私は、あなた達の助けが無くても、1人でも問題、ありません。今までだって、ずっとそうでした、から」


息も絶え絶えになりながら、ルチアさんは苦悶の表情を浮かべていた。初めてみたな、彼女の表情が大きく動いているところ。


「何が、だよ。あーし達がいただろ…」


プラムさんがルチアさんに聞こえるかきこえないかくらいの声量でそう呟いた。


もう一度ルチアさんの顔を見る。


明らかに顔色が悪いな、多分ただの疲労によるものじゃないな、これは。多分何らかの魔術が作用している筈だ。


でもこのままだと、彼女に治療を施すことは困難だ。以前彼女は僕達3人と距離をとり、近寄らせまいとでも言うように視線だけは向け続けていた。


「ルチアさん、ごめんなさい」


そう呟き、彼女との距離を一瞬で詰め、最小限の力で後頭部を打ち、意識を刈り取った。

力なく倒れた彼女を最新の注意を払って抱き抱えた。


万全の彼女ならこんな動きじゃ、簡単にかわされていたはずなのだが。それだけ、今の彼女は危険な状態なのだろう。


ラピスさんがすかさず駆け寄り、容態を確認する。プラムさんはいつの間にか部屋から消えていた。おそらく治療に長けた信頼のおける人間を呼びに行ったのだろう。


「ラピスさん、応急処置僕も手伝います。治療魔術なら、幾らか覚えがありますから」






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