第6話 枝垂れ桜
お使いで宗明と共に行くのは久しぶりの日、羽のは阿せいに尋ねた。
「今日は何を着ていけばよいのかしら」
「姫様、あ、お嬢様何を言ってます、いつもので良いですよ、いつものお使いですから」
「でも今日は……」
「はいはい、じゃこちらを」
桜の木の下で宗明を待ってる羽の、そこに慌てて来る宗明。
「すまん、待たせたな」
「あ、宗明さま」
「そ、そうだこの枝垂れ桜が早く咲くのを見たいな」
「はい、わたくしもそう思って」
「あの薄墨を思い出すなぁ」
「わたくしも……」
家の出口の桜の木を見上げる二人。
「そなたが桜の下に立つ姿を見たい」
「え……」
「あの時は桜の化身かと、いやぁすまん、たわけた事を言った」
照れ笑いの宗明を見つめる羽の。
「晴明の時期が好きです、生き物が輝いてるので、宗明様も春がお好きなのですね」
「そうだなぁ、あの時。あの千年前の帝の歌に生きる力を貰ったからなぁ」
「わたくしも、もう少し生きて良いと思えて」
「もう、昔の事は忘れると良い、過ぎた事だ。私の傷も癒えたし」
「……ありがとうございます」
昔、羽のが犯した罪は、もう既に過去の事となっていた、自分の傷も心の傷も癒えている。
ゆえに宗明は羽のがスッパであったのを忘れる事にして生きていた。
それより商人として戦さを辞めて、祖父の遺言通りに平穏にしてる方が、家族がいつも揃っておるので心強い。
すかさず羽のに告げた。
「それからいつも部屋の掃除は……有難いよ」
「……気づいてくれてたのですね」
歩いて行く宗明について行き、微笑む羽の。
二人の影が街角をゆっくり曲がって行く。
薄墨桜の恋 貴船 汐音 @kifune_sion
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