【大陸間通信】のために~自制するテスラは失敗しない~
信仙夜祭
第1話
今俺は、シカゴ万博を高い所から見下ろしていた。煌々と電灯が灯っている。
場所は交流発電所の屋上だ。
「ふっ、勝ったぜ。交流発電の勝利だ」
憎っくきエジソンに、赤っ恥をかかせてやったぜ。
電流戦争なんて呼ばれて、世間は楽しんでいたけど、俺の心はね、正直戦々恐々だったんだよ。
知名度は向こうが上。資金力も向こうが上。
ちょっと前まで、俺はしがない労働者でしかなかったし。
実績を尊重してくれる奴って、大事なんだな~。
「技術を正しく理解してくれる人達が審査員じゃなかったら、負けてたな~」
エジソンが勝っていたら、これから各家庭に発電機を一個ずつ設置することになっていた。
今の安全性だと、発電機一個が爆発したら街が消失しかねない。
それよりは、郊外に建てられた発電所に何重もの安全装置を付けた方がいいよね。
直流発電で、多大な損害が出たとする。その後に、『交流発電』が見直されても、その時俺は一文無しで、手柄は誰かに盗られるだろう。
エジソンは、直感的に閃く人だからないけど、部下に優秀な人がいれば分からない。
エジソンの会社が、交流発電の利益を持って行くかもしれないしね。
今の時代は、先に特許を取るのが重要なんだ。
「気分がいいな~」
でも、徹夜が続いたので疲れている。
今日はもう寝よう。
起きているのか、寝ているのか……。
まどろみの中で、何かを思い出してきた。
「『電気の歴史 人と技術のものがたり』。『電気の世界史』。『知られざる天才ニコラ・テスラ エジソンが恐れた発明家』?」
昔読んだ、本のタイトルな気がする……。でも昔?
苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。
朝起きて、確認する。
鏡の前には、中年のイケメンがいた……。
「俺……、ニコラ・テスラなんだよな。大陸間通信で先を越されて破産して、孤独な晩年を過ごす。【雷電博士】とか【電気の魔術師】呼ばれる……。死後に評価されて、磁束密度の単位〈テスラ〉として名を残すんだけど……。ヤバくね?」
やっべぇよ。この後、転落の一途じゃん。
エジソンは、この後も利益を出し続ける。そして、孫に囲まれて幸せな最期を迎えるんだ。
俺はというと、ボロアパートで孤独死だ。最後は、ほぼ無一文だったのも有名だし。
だけど、考え方を変えよう。
「こっから堅実に行けば、稼げるんじゃね?」
ここで、ジョージ・ウェスティングハウス氏が来た。
交流発電の支援と実用化に、多大な貢献をしてくれた人だ。
「独り言が聞こえました……。次の研究ですかな? 私も一枚噛みたいですね」
科学的知見を持っている人だ。技術を正しく評価する知見は、この時代随一の投資家だろう。
「まず、資金集めからですね。また、よろしくお願いします」
「おお! ショーに出る気になられたのですね。いいですよ、テスラ氏であれば、引く手あまたなので」
ショーか~。
もうね、手品師と変わんないんだよ。サーカス劇団で交流の安全性を示したことあるし。
俺は、空を見上げた。
(今はまだ、出資者がいる。作りたいモノの設計図も頭の中にある)
「堅実に行けば……、成功できるかもしれない」
「はっ? この交流発電所は、『成功』ではないと? テスラ氏は、まさに【発明超人】ですな」
特許を君に売っちゃったからね。
俺の懐は、潤わないのよ。
だけど、今後も懇意にしたい人なんだよね。
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