第4話

「……と、いうわけなのさ。」


松平は手洗い場の蛇口をひねりながら言った。


「まあ面白いんだろうけどさあ、そのレイって主人公、お前のことだろ。」


隣で雑巾をしぼっていた鈴木は、松平のお喋りにうんざりしているようだった。


松平は蛇口をひねりながら、首を横に振った。


「いいや、作者とキャラクターを混同してもらっちゃあ困るなあ」


蛇口から溢れるしぶきが、ステンレスのシンクに反射する。高校の大掃除は、喋りながらでないと進まない。

松平は鈴木の顔をちらりと見る。平凡な顔だ。


「てか、お前いつまで蛇口回してんだよ」


松平はいまだに蛇口をひねっていたが、一向に止まる気配がしない。


「いや、なんか締まんないんだよ。壊れてんのかな」


「先生呼んでくっか?」


鈴木は半笑いで言った。松平は激高した。


「おまえ、おれがなんもできないっていいたいのか? それ、おれの作品を笑ってるよな?」


「は?」と鈴木は言った。


「おれは堅忍不抜のレイだぞ」


松平は叫び、鈴木の首に飛びかかった。

避けようもなく、鈴木はバランスを崩し、頭から床にぶつかった。首に松平の全体重がかかる。首の骨が折れたようだった。


松平は手を洗い、蛇口をひねった。締まらなかった。


「ああ、マナが溢れてる。煉獄から脱出しないと」


教室のほうから女子の笑い声が聞こえてくる。

いつもの二人組か。

そうだ、おれは傀儡殺しのレイだ。

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壊れた蛇口からマナが溢れて困ってる わく @okurayamanoue

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