第2話 千紘さん①
小学校からの幼馴染で、大好きな友達、
「なんでなんで!?まだ約束の時間じゃないよ!?あっ、そんなことより長旅で疲れてるよね!?座る!?でもずっと電車で座ってたんだからお尻痛いよね立つ方がいい!?お茶飲む!?ほら中入って!!」
「…落ち着いて。こっちでの用事が早く終わったから迎えにきただけ。ところで…」
落ち着けるわけなかろう。"用事"が終わったれーちゃんを俺が待ち合わせ場所まで迎えに行くはずだったのに…こんなに早く会えるなんて!
目を輝かせる俺をいつもの如く軽くあしらい、れーちゃんが鬼(黒髪クレーマーさん)に目を向ける。
「…この店になにか問題でも?」
「はっ…い、いえ…ただ、このブーケを返品させていただきたくて…」
鬼(黒髪…)の態度が先ほどよりも明らかに柔らかくなっている。おまけに、微かに頬が赤く染まっているではないか。
(気持ちは分かります。イケメンだもんね、れーちゃん)
髪は黒髪と青のグラデーションで、前髪は長め。瞳は綺麗な青色な上にまつげがとっても長い。タートルネックのニットに大きな黒いコートを身に纏っていて、基本お店のエプロン姿な俺と同い年とは思えないお洒落さんである。そんなだからモテモテかと思いきや、ほんのすこ〜しだけコミュニケーションが苦手なため、学生時代は周囲からほんのり距離を置かれていた。
「…あの」
「はい?」
「…………」
「なんですか?」
「………………」
そんなことを考えていると、気づけばれーちゃんがいつもの人見知りを発動させている。救出しなければ!
「れーちゃん」
短く声をかけると、またまたいつもの如く、れーちゃんが俺にこそこそと耳打ちする。いわば通訳だ。懐かしい、学生時代を思い出すなあ。
「えっと、明らかな不備等がある場合を除いて、ブーケの返品は受け付けていない店がほとんどです。返品をご希望なら、きちんとした説明をお願いします、とのことです!」
「…」(こくこく)
「は、はあ…」
「それで…どうして返品を?」
「それは………と、とにかく返品したいんです!!"あんな人"からの贈り物なんて、大事な娘に触らせられない…!」
「…あんな人?千代さんのことですか?」
それに"大事な娘"って、もしかしてこの人は…
「なんだ、あの人と知り合い?それなら話は早いわ。分かるでしょう?あの人、私に取り入るために娘に擦り寄ってるのよ。帰ってくるなりいきなりに花なんて渡してくるのがなによりもの証拠だもの。ああ気持ち悪い…」
間違いない。この人が持っているブーケは千代さんがお孫さんに贈ったものだ。そのお孫さんがこの人の娘さんということは、この人は千代さんの娘さん…ということになる。孫…娘……うーんややこしい。
それにしても千代さん、酷い言われ様だ。あんなに優しくて上品なおばあさんが「気持ち悪い」とまで言われると悲しい気持ちになる。この人と千代さんの間に一体なにがあったというのだろう。きっと、何か大きな誤解が生まれているはずだ。
「よければ、話を聞かせてもらえませんか」
「…話?」
「なっ…」
れーちゃんが目を見開いて俺を見る。「変なことに首を突っ込むな」とでも言いたげなところを無視させていただいて、戸惑う女性を店の奥に案内する。openと書かれた看板を、今だけ反対向きに。
「お茶、どうぞ。れーちゃんも」
「どうも…」
「…ああ」
店の奥には、カウンターの他にも大きな机と小さな椅子四脚のちょっとしたスペースがある。普段はそこで注文されたブーケを作ったり、休憩したり、休憩したり、休憩したり…
「……お名前は」
って、れーちゃんが喋った!!って、いやいや、俺はなんて失礼なことを。れーちゃんだって喋るだろう、人間なんだから。知らない人相手に自分から話しかけるのは、確かに物凄く珍しいけれど。
「
千代さんと同じ"千"が入ってるんですね、とは言わない。きっと"地雷ワード"というやつだ。
「千……さっき言ってた千代さんとやらと一緒なのか」
れーちゃん、言った。限りなく小さい声だし本人からしたらなんでもない独り言なんだろうけど、確かに言った。聞こえてませんように…!
「はぁ!?ちょっと変なこと言わないでくれる!?さいっあく!!!」
「聞こえてた…」
予想通り鬼改め千紘さんの地雷を踏んでしまったらしい。こういう時だけハッキリ聞こえるの、ほんとなんなんだ。
「あの人、私に興味なんて無いくせに…」
(どうしよう、謝る?でも下手したら余計怒らせちゃいそうだし…)
このままでは千代さんの誤解を解くどころか、余計怒らせてしまう。千代さん曰く久々だという帰省に、極力嫌な思い出は残したくない。
「そもそもあの人がしつこく電話なんて寄越してくるから……」
______その時。勢い良く店のドアが開けられた。
「おにーーちゃーー!!」
……え?
人生は花屋と共に くろねこ。 @yuyu0920
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