第10話 オルカとヌースの森林探索2 薬用植物採取1樅

 薬用植物採取が始まり、ヌースさんはまず一番近くにある樅の木に触れた。


「まず樅だがこの森林には2種類の樅が生育している、一般的に低地の河原、谷間、山腹に沿って生育し、より広い地理的範囲に分布する、グランドファー大きな樅と、主に山脈や海岸山脈の高地に限定して生育している、ノーブルファー高貴な樅だ。今日採取するのは、今いる森林の浅層の低地にも生育している、グランドファーだな」

「あの、ノーブル高貴なとは何でしょうか?」


 何処が高貴なんだろう?


「ああ、この木はな、その樹形が美しく、材質も優れていることから、“高貴な樅”という意味の名前が付けられた木なんだ。木材としても利用されている」


 なるほど立派で値打や値段が高いから、高貴なんだな。


「話を戻そう。樅の、葉、内皮、樹脂、の内、葉の採取方法は、葉だけを採取するか、小さな枝先をナイフか短剣で切り取る。木の健康を優先して、一箇所から根こそぎ採らないようにする、複数の場所から少しずつ採取し、木全体の成長に影響が出ないようにするんだ。内側に向かって伸びている枝や葉を根元から切り落とす形で採取すると良い。自然に落ちた小枝から、まだ緑色の葉を集める方法もある」


 そう言ってヌースさんは左腰に下げられた短剣を抜いて、手の届く場所にある樅の枝を切り落とした。


「採取した後は樅の葉を予め用意しておいた、水が滴らない程度に湿らせたわら半紙で拭く」


 ヌースさんは荷袋から、布で包まれた硝子製の密閉容器を取り出し、中に入っている湿らせたわら半紙で樅の葉を拭いたあと、余分な水分を振り落とした。


「あとは、湿らせたわら半紙で樅の葉を優しく包む。これで、適度な湿度を保ち、乾燥を防ぐ。包んだわら半紙ごと、硝子製の密閉容器に入れて木栓で蓋をする。後は容器が割れないように布で包んで、荷袋に入れる。分かったか?」

「はい、分かりました」


 この世界に転生して以来、記憶力や頭の回転速度が良くなった気がする。

 前世ならこの段階で頭の回転が追いつかなかっただろう。


「次に内皮は、まず幹に切り込みを入れる、幹の周囲に横方向に切り込みを入れ、次に縦方向に切り込みを入れて、剥がしやすくする」


 ヌースさんは短剣と共に左腰に下げられたナイフを抜いて、樅の幹に横と縦の切り込みを入れる。


「切り込みを入れた部分から、箆やナイフなどを使って慎重に樹皮を剥がしていく。樹皮を剥がしたら、剥がした樹皮から利用したい内側の柔らかい層、内皮をさらに分離する」


 ヌースさんは外皮から、柔らかい内皮をナイフで分離していく。


「採取時の注意点は、大型の木から広範囲にわたって樹皮を剥がすと、木が水分や栄養分を運ぶ能力を失い、最終的に枯れる可能性がある。持続可能な採取のためには、伐採された木の一部を利用するか、細い枝から採取するのが良い。殆どの奴がちまちま採取するのが面倒くさいから、まだ採取されてない樅の幹を探してそこから採取してるけどな。俺もそうだ」

「そうなんですね」

「そうだ、そのうちこの森林の浅層から採取されてない樅の幹がなくなるかもな」


(それは大丈夫なんだろうか?)


「採取後は内皮をわら半紙で包む。わら半紙は余分な湿気を吸収し、かびを防ぐ役割がある。わら半紙で包んだ内皮を、木製の平ざるで挟む。密閉容器は避けるんだ、高温多湿ならないようにする。まあ、ネゴシオ王国の秋は寒いし乾燥してるから大丈夫だろうが」


 ヌースさんは荷袋から取り出した、2枚の木製の平ざるでわら半紙で包んだ内皮を挟み、開かないように縄で縛り、それを荷袋に入れた。


「そして樹脂だ。樅の樹皮には、小さな水ぶくれ状の樹脂嚢が点在している。それを探すんだ」


 ヌースさんと僕は周囲の樅の木々を観察し、樹脂嚢を探した。


「これだ、この中に樹脂が溜まってる。ナイフや針、または専用の採取器具、硝子製の密閉容器等の保存用の小さな容器を用意する」


 ヌースさんは荷袋から、樅の葉を入れた密閉容器とは別の硝子製の密閉容器を取り出した。


「採取手順はこうだ、樹脂嚢の最も低い位置、または採取しやすい位置に、刃物で小さな切れ込みを入れる。流れ出てくる樹液を、用意した容器で受け止める。樹液は粘り気があるため、容器の縁に垂れないように注意深く行う。一つの樹脂嚢から採取したら、次の嚢を探して同様の作業を繰り返す。注意点は過剰な採取は木を弱らせる可能性があるから、同じ木から一度に大量に採取することは避けるんだ」


 ヌースさんは暫く複数のグランドファーから、樹脂を採取していた。

 2級狩人のヌースさんなら森林の中層で動物を狩っていたほうが余程収入が良いはずなのに、こうして時間を割いて僕に薬用植物採取を教えてくれている。

 面倒見の良い先輩である。


(この恩はいつか返さないとな)


 そう思う僕であった。


「よし、集め終わった。木栓で蓋をして採取完了だ。後は容器が割れないように布で包んで荷袋に入れる。これで樅の採取は終わりだ」

「ありがとうございました」

「はははっ、礼を言うにはまだ早いぞ。ほかにも採取する薬用植物があるからな」

「はい、よろしくお願いします」


 僕とヌースさんの薬用植物採取はまだ続く。

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臆病者の異世界日常譚 ラムカナ-ルオカ @ramukana-ruoka

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