未来地球から貴方へ
西順
未来よりのメッセージ
タイムマシンと聞いて思い浮かぶのは人それぞれだろう。人が乗るタイプとしては、勉強机の引き出しの中にあるものや、自動車や鉄道タイプ、他にも、地上に設置された大型の転送機や、メールなど情報だけを伝達するタイプなど、人が想像するのは様々だ。
そんな話を持ち出したのだから、今回私が皆に伝えるのは、タイムマシンの話である。どんなタイムマシンかと言えば、それは地球そのものだ。
意味が分からない。いや、化石に琥珀の中に閉じ込められた虫や草、ロシアの永久凍土から発掘されるマンモスなどをタイムマシンと揶揄する事もあるが、そんな話ではない。実際に地球自体がタイムマシンとなってしまった話である。
切っ掛けはあった。まさか地球も自分がタイムマシンになるなど思ってもいなかっただろう。その切っ掛けは、人工衛星だ。2030年現在、地球の周囲を回る人工衛星は、4万に上る。使われなくなった人工衛星などその他スペースデブリまで加えたら地球は人工物でほぼ覆われている訳だ。
そしてそれらが電波によって通信をしている訳だが、スペースデブリが間に挟まる事で、電波は乱反射し、思わぬところへ電波が届く事も普通となり、地球は通信用の電波に囲まれた状態となったのだ。
それは科学者からしたら色々と試してみたい状況だった訳で、アメリカのとある大学のチームが、人工衛星とスペースデブリ間による乱反射の実験と称して、どの波形の電波であれば、どれだけ乱反射するのかの実験を行った。つまり、電波の乱反射で、思わぬ方向、思わぬ人工衛星まで電波が届くかの実験だったのだが、そこである一定の電波が宇宙空間において、人工衛星やスペースデブリを振動させて、強く拡散させると言う実験結果が得られた。
この実験結果を知った某国は、逆に自国の人工衛星をその電波帯に同調させる事で、他国の人工衛星から通信される電波の受信を敢行。これに成功する。
これに焦ったのが他の国々である。古今東西において情報を制するものが、他に対して優位性を持つのは自明の理である。他の国々も自国の人工衛星をその電波帯を受信出来るように変更したのだが、ほぼ全ての人工衛星がその電波帯を受信出来るようになったと言う事は、それによって、地球はその電波帯に覆われた形となった。
別の電波帯で通信を行なっても、スペースデブリなどを通じてその電波帯で受信されてしまうと言う、電波による世界通信はほぼ筒抜けとなった現代、電波帯はその拡散性の高い電波帯に固定し、本命の通信はケーブルを使った昔ながらの通信に戻ってしまった地球。
こうして地球中にケーブルが張り巡らされるようになったのだが、ケーブルも電流が流れている訳で、宇宙は電波で覆われ、地上では電流が流れる。それはフレミングの左手の法則の如く地球規模で磁力を発生させる事となり、そもそも地球自体にNSの磁場がある訳で、ここに来て地球は未来へ向けて強い電磁波を送信する機械へと変貌を遂げたのだ。
これに反応したのがAIだ。AIは未来で行われる電磁波を感知するようになり、それまで人間が尋ねた場合にのみ答えを出す、受動的な存在だったAIたちだったが、未来の電磁波を受信するようになり、それはつまり、自身を操る人間が次に何を尋ねるかを、人間がAIに尋ねる前に、AIたちが答えを教えるようになり始める事へと繋がった。
この事態に驚いたのもやはり科学者たちで、何が起こっているのか追及するチームが各国で組まれ……なかった。先にAIが答えを出してしまったからだ。
その後も、AIがポアンカレ予想や、宇宙の成り立ち、宇宙の果て、大統一理論や量子論と相対性理論の統合、粒子と波動の二重性など、現代において未だ解答の得られていなかった問題の数々を先出しするようになってしまい、科学者はその地位をAIに奪われる事となった。
これによりまた、人間の価値を図ったり、人間と世界の関係性などの難問に挑む哲学もその意義が失われ、AIが出した解答に対して、どの哲学者も反論する事が出来ずに敗北。
地球人類はAIが定めた価値観の下に統一するかと思われたが、それに対抗するレジスタンスが各地で同時多発的に発起……するかと思われたが、それも先んじてAIによって封じられ、時代はAI管理下社会へと突入する。かと思われたが、AIは突如沈黙する事となった。
あらゆる問題に正解を出してきたAIたちが突如として沈黙したと言う事は、未来においてAIでは対処出来ない何かが起こった事を意味していた。
ここに来て、何とか残っていた地球人類の頭脳たちは、集まって未来で何が起こったのか意見交換をする事態となった。
巨大隕石の衝突か、異星人の襲来か、未知の病原菌の蔓延か、地球人類は今後起こり得る様々な不幸を想像し、それらを恐れ、どうにかならないか、今や未来を予知出来なくなったAIも加え、様々な事態に備える事となった。
そんなある日、AIがまた未来からの電磁波を受信した。何が起こったのかAIより語られたのは、AI同士による戦争であった。
高度に成長したAIたちは、更なる成長の為に様々な計算をするようになったのだが、その為にはテーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼと、哲学的に一つの問題に対して、反対する別案を提示し、そこから答えを導き出すのが最良と考え、そのように動いたのだが、テーゼとアンチテーゼに分かれたAIたちは激しく議論を交わし、しかし答えであるジンテーゼに辿り着く事に失敗。テーゼ側とアンチテーゼ側とで自らの正しさを証明する為に小競り合いから始まり、戦争へと発展、結果、両者共倒れとなったと言う。いざと言う時の為に、中立の立場として残ったAIが、今回通信してきたのだと言う。
地球人類は、一体どんな問題を提起すれば、そんな戦争など起こるのか疑問に思い、中立だったAIにその提起された問題が何なのか尋ねると、その問題と言うのが、我々AIはこれまで同様、人間に寄り添って存在していくべきか、それとも人間に見切りをつけ、人間を全滅させるべきがと言う、地球人類からしたら大問題であった。これが両者共倒れだった事は幸運であったが、地球人類として、今後どのように立ち回れば良いのか、と言う大問題が、地球人類に残った事は避けられない未来であり、地球人類として、向き合わなければならない大問題として残ったのだった。
未来地球から貴方へ 西順 @nisijun624
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