第38話

 その翌日。

 ペトロニーユが夕食を食べに、地下の部屋に訪れていた。

 幸せそうにパンを頬張る姿を崇めていると、「あ」と思い出したかのように声を出す。


「そうだ、エステル。

 昨日はどうもありがとう」


「昨日?」


「手帳。

 絵画の下に置いていってくれただろう? 助かったよ」


 あれがなければ大変なことになるところだった。

 反省の様もなく笑う。

 少し呆れた。


「ああ、あのことね。

 気づいてくれたようでよかったわ。

 今度から忘れないように気をつけなさいね」


 はあい、とペトロニーユは返事をする。

 暖炉の奥に薪がひとつ、又一つと投げ入れられた。


「入れすぎないで頂戴ね」


 食器を片付けようと席を立つ。

 エステルは服の埃を払うようにして、そっとエプロンのポケットに触れた。

 普段小物や筆記用具などを入れているが今日は違う。

 小さな金属製の部品のようなものが入っていた。


 そっと袋の口を開き中を覗き込む。

 奥には金色に輝く小さな勲章が入っていた。

 しかも、貴族の称号を示すための貴重なものだ。


 表面の色硝子部分には、小さな文字で『ラファイエット』と描かれている。


「……全く。

 私ったら」


 掏摸は止めたはずなのに。


 ずっと昔、生きるために覚えた汚い技。

 もうとっくにやめたはずなのに。

 自身のあまりにも浅ましい行為にため息を吐く。

 暗い表情が目に入ったのか、ペトロニーユは顔を覗き込む。


「どうしたんだいエステル」


「……なんでもないわ。

 食器、片付けてしまうわね」


 エステルは無理矢理に笑顔を作り、シンクへと向かった。



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Beast Of The Opera 内海郁 @umiumi0916

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