第6話 「契約」するらしい
アルフレッドは一人歓喜に打ち震えていた。
この長い人生において、あのような翼を持った存在は見たことがなかったからだ。
似たような存在が「天使」として使い魔の目録に記述のみで記されているのは知っていた。
しかし召喚されたという記録はあってもそれははるか昔の時代。まだ世界が渾沌に飲まれていた時代の話なのだ。
「あの翼、あの髪色、あの魔力の濃さ!爺さんに聞かせられたおとぎ話の存在とそっくりだ!できれば羽の一枚、いや抜け毛一本ぜひ補完したい!!」
「アルフィ、悪い癖が出てるわよぉ」
敏腕召喚術講師アルフレッドはある持病で有名だった。
【常春の魔術師】などと昔は宮廷でブイブイ言わせていた彼は、根っからの使い魔狂いの男だったのだ。
「駄目ねコレ」
それを知っている【
〜〜〜〜〜〜
「いますぐマリアを切り裂け!ウォリアー!!!」
「いけません天使様!」
失敗に終わると思っていた召喚の魔法がまさかの成功を収めてしまったことにアレイは大きな焦りを感じていた。
そしてその感情を感じとった忠騎士は言われるまでもなく、己が主のために行動を開始していた。
「んー、よく分からないけどさ。とりあえずは飲み込むよ。それで可愛いお嬢さん?ボクはどうしたらいいのかな」
ふわりと地上から浮き上がったアイダは後方から繰り出される細剣の刺突を翼で弾きながらマリアに問いかける。
「ッッッッッッ!!!」
マリアは言葉にならない喜びを噛みしめた。
幼い頃から憧れた使い魔とのやり取りが長い時を経て最高のシチュエーションでおこなわれているからだ。
アイダはなんとなく後ろで鼻息荒くしていた少年より、目の前で手を差し出していた少女の方が話が出来そうだと思っただけなのだが。
「クソ、クソ、クソォ!さっさとそいつを殺せよウォリアー!っ【
謎の悪寒と焦りに襲われ続けるアレイはついに自身も魔術を使用し【動く鎧】の援護を始める。
「(うーん、とりあえずあの騎士くんをどうにかすればいいのかなぁ?この子すっごいこっち見てくるけど全然話してくれないし...)ちょぉっと、うごかないでねえ」
アイダは翼をはためかし、風の壁を作りだしてアレイの放った火球を防ぐ。
ついでマリアを左側に呼び寄せると翼で包んでおく。
風の壁を挟んで騎士を睨みつけるアイダと、アレイを守るように立ち塞がる【
騎士は細剣をかまえ、一点突破を狙い溜を作り始める。
それを向かい打たんとアイダも右手上に光を集め撃つ準備をした。
ところで
(あ、あっぶなー!そういえばあんまりこういうことしちゃあダメだって怒られたんだったぁ!!)
急いで光をかき消すアイダ。
「あ、あの天使様...? 」
「ナンデモ、ナインダヨォ?」
言葉を紡ぎながら壁になっている暴風を拳に集めだす。
「お、おい。なんかやばくね?」「結界が聞いた事のない音立ててるんだけど!?」「てかこれ俺らもやばいんじゃ...」「さささ、さすがにこの結界だったらまもってくれるに違いねえよ。な?な!」
巨人が息を吸い込むかのようにて結界内の空気がアイダの右手に集約していく。
一瞬、すべてを吸い込み終えたのを教えるかの如くすべての音がやむ。
【
アイダがこぶしを突き出す。
続いてそのこぶしの軌道をなぞるように圧縮された風が放出され、轟音とともに大地がその風を避けようとして割れる。
荒れ狂う嵐が青銅の忠騎士を宙に連れていき、結界の天蓋に叩きつけ、挟み込むような形で行動を阻害する。
「ウォリアー!早く抜け出せ!!」
主人の声に答えようと足掻くものの踏みしめる大地がないからかうまく力が入っていない。
風をどうにか自分からずらそうと鎧がギャリギャリと削れるのも気にせずに掴み続けるが、一向に動く気配がしない。
観戦席で見ていたものは急に自分のほうに飛んできた【動く鎧】に目を見開き、そして絶対の防御と言われた結界がミシミシと音を立てているのを聞き今度こそ逃げだした。
「・・・・・・!」
【動く鎧】も必死に風を弾き飛ばそうと藻掻き続け、喋れないはずなのに雄たけびすら聞こえてくる。
そしてついに風をどかせるよりも早く、【動く鎧】は風に削りきられ、送還の光とともに散り散りに消え去っていった。
「あ、ああ、あああああああ!おれの、おれのぉ...オレのウォリアーをよくも殺しやがったなァ!ぜってえ許さねえ。死ね、死ね、しねええええええ!!!!!」
悲惨な使い魔の最後に、アレイは発狂しながら決死の突撃を敢行する。
その様子を見て左でこぶしを固めるアイダ。
「確かに君たちにも事情はあるんだろうけど、君はすこぉし自分の欲望に忠実すぎかなあ」
神聖な輝きを増すそのこぶしで
「おら」
【
【動く鎧】の飛ばされたのとまったく同じ位置に殴り飛ばす。
その日、天に上る光を見て祈るものたちが大勢いたのだとか。
外では大変な騒ぎになっているものの、競技場内では全くと言っていいほどの無音が広がっていた。
そこには二人の少年少女が互いを見合っていた。
「ふう。怪我はないかいお嬢さん」
久々の戦闘で力の加減に多大な労力を割いたアイダは、すでに精神的疲労から眠気が止まらなくなっていた。何とか天使らしく取り繕って「怪我はないかい」などと言ってみたが正直今すぐにでも自分の羽にくるまって眠りたかった。
「ええ、あなたのおかげでケガ一つありません」
すっかり落ち着きを取り戻した(と表面上取り繕えた)マリアはくるりと一回りして元気であると返答する。
彼女も彼女で正直今すぐにでも契約を持ちかけたくてたまらなかった。
目の前のかわいらしい天使に引かれたくなくて我慢していたにすぎない。
なので
「あの!」「ねえ」
「ああ、お先にどうぞお嬢さん」
「ああ、はい!あの、その、、、」
「私と契約してください!!!毎日ちゃんとお世話いたしますので!」
「よろこんで!」
この契約は必定だったのかもしれない。
ぐうたら天使。ーたまには天使らしく頑張ります。えい。ー 四方山花風 @YOmo_yama_Kafu
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