番外編

放課後の教室。

夕陽が差し込む時間は、いつも少しだけ切ない。

でも、俺はあの時間が好きだった。

隣の席で、必死にノートを取ってるひなたを見るのが、なんか安心したから。


最初、正直言うと⋯⋯ただの興味だった。

静かで、話しかけづらそうな子。

でも、時々ペンを落としたり、プリントを逆に持ってたりして、

そのたびに「あ、なんか放っておけねぇな」って思った。


だから、最初にちょっかいを出したとき、

ひなたがびっくりして目を丸くした顔を見て、

ああ、もうダメだ、ってなった。


困った顔が、可愛くて仕方なかった。

でも、それだけじゃなくて。

何かを頑張ろうとする顔も、

不器用に笑うときの表情も、

どれもまっすぐで、きらきらしてた。


あの文化祭の日、ひなたが泣いたとき、

俺のせいで泣かせたってわかって、胸の奥がぎゅっと痛くなった。


それなのに、もう、困らせないでって言われた瞬間、俺の中の困らせたいって気持ちは、消えなかった。


だって、それはもう。

「好き」ってことだったから。


引っ越してる間も、ひなたがどんな顔で笑ってるか、何してるか、ずっと気になって仕方なかった。


ノートに書いた言葉は、全部、

「伝えられなかった気持ちの続き」だった。

本当は、最後のページにこう書くつもりだった。


俺が困らせたかったのは、ひなたの心を、俺のほうに向かせたかったから。


再会した日のひなたは、少し大人びてた。

でも、笑うときは前と同じだった。

相変わらず、不器用で、優しくて。


「私、もう不器用じゃないよ」


って言ったひなたに、


思わず「うそ」って返したのは、

きっとまだ、俺の中で守りたいって思ってるから。


ひなたはきっと、自分が成長したって思ってる。

でも、俺から見たら。


あのころのまま、真っすぐで、少し照れ屋で、

世界でいちばん可愛いままだ。


だから、これからも困らせ続けたい。

泣かせるんじゃなくて、

照れさせたり、笑わせたり、

そんな困らせ方をしていきたい。


春風が吹くたびに、あの星のシールを思い出す。

俺たちが机に貼った、あの星。

「ここ、残しとこうよ」って言ったのは、

もしかしたら⋯⋯未来でまた並べるように、だったのかもしれない。


ひなた。

これからも、ずっと困ってくれよ。

そして⋯⋯そのたびに、笑ってくれ。

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不器用な私を、今日も神崎くんが困らせる ちょむくま @TakinsaCI

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