跋文

あとがき

 世界の歴史において人々のブームを占領してやまない戦国の世は、ときに美化され、そこに内在する浪漫という正当性をものがたられます。

 反面、近現代における各国の紛争にいたっては、人権の損害にかかる批判がおおいに提示され、国際間の問題となるところであります。


 しかしこのご時世も、そのうち千年経てば風化し、単なる歴史と化したこの戦跡を、未来人は憧憬を付して美辞麗句を並べるのでしょう。

 そうしてまた、いくさの鬼哭啾啾きこくしゅうしゅうたるを忘るるころに、人類は同じあやまちを繰り返すのです。


 さて、ルンブラン公国とシェメッシュ小邦との領地争奪からはじまる本作では、タフガイな二人の深いきずなを通して、国家あるいは親友をかけて戦う男の美学を描いて参りました。


 ルンブラン公国忠節国士隊将帥のキドンは、たまさか王妃モーティナの怒りを買って啸風子に変身させられ、敵国シェメッシュ小邦に転がり込むこととなります。

 そこにて啸風子は、一目惚れした聖騎士団総長アルコと生活をともにし、深い友情を育んでいきます。

 

 その甲斐あって、啸風子の呪縛が解けたときには、アルコは敵将キドンを「親友だから」という素朴な理由で見逃すのでした。

 しかし、祖国へ帰ったキドンは、タイラント国王やひょうきん三銃士からアルコの討伐をほのめかされ、進退窮きわまってそれに乗じてしまいます。


 おまえさえいなければかような恥辱に困ることはなかったと憎しみをつのらせ、キドンはアルコを無残に刺し殺してしまうのでした。


 キドンはなぜ、惚れ親しんだはずのアルコの恩を裏切り、親友の命を奪ったのか。

 つまるところキドンは、タイラント国王の敷くルンブラン公国の軍事政権に組み込まれたコマに過ぎなかったわけです。


 ひるがえってアルコは、キドンの性分を最後まで信じて疑いませんでした。

 アルコの信念は、忘恩の徒とて許容できるほどに寛大であったと言えます。


 後半アルコは、正気を失ったキドンに、ふたたび「愛」を取り戻してほしかったがために、なかば悲痛な呼号で訴えます。

 しかし、キドンの「愛」の灯明とうみょうは、ついぞともることはありませんでした。


 ただし、「キドンは憎まれ役のヴィランに相違ないゆえ、それを友と称えたアルコはまさしく英雄なのだ」と、そう感じてはならぬのです。


 キドン、いわゆる人間の「愛」を灰煙はいえんへとおとしいれることの元凶こそは一種の戦争にありましょう。アルコは、終戦を求めるべきであったそのいくさに応戦してしまったにすぎない、同じ戦犯の一人なのです。

 友情のこじれてしまった二人には、おのおのがそれを自覚していれば、あるいは和平につながる傍流ぼうりゅうがあったのかもしれません。


 では、最後になりますが、ここまでご一読いただきましたみなさまにおかれましては、たいへん感謝申し上げます。

 この物語が広く読者の目に止まり、私の熱意が伝わることを願っています。また、その残酷性が読了後の余韻として活きてくれれば、なお私の理想に近しい完成度と言えるでしょう。



令和7年12月13日ぽんつく地蔵

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笑わぬ虎は、青瞳を愛する。 ぽんつく地蔵 @Nirva-na3

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