【1-4】陰キャ、お兄様とご対面
転生してから五日目の朝。
レイナ・アシュリーは机の前で唸っていた。
「む、無理ぃ……! 詠唱ってなんでこんなに長いのぉ……!」
机の上には魔導書が山積み。一冊開けば、意味不明な古代語と丸文字のルーン。
頭が爆発しそうだ。
(確かレイナって、四属性の魔術が使えるんだっけ? で、なんか努力しなかったから成長しなかったんだよね……てか四属性って凄っ!?)
「さて……まずは四属性の魔法の勉強から……!」
(四属性って……火・水・風・草……? ……待って草って何!?)
「えっと……火の炎を制御する……とか……?」
小さな声でぼやきつつ、魔術の基礎勉強を開始。
そんな時、玄関ホールから父の声。
「レイナ、お前に会わせたい人がいる」
「え!? お、お、お父、しゃま!? ……あ、あわせ、たい、ひとぉ……?」
突然の父、アビスに扉を開けられレイナはガクガクと震えている。
陰キャ過ぎる故に、人とまともに話せないのだ。
レイナは震えながらアビスに案内され、玄関ホールへ向かう。
* * *
ドアを開けると——
「ただいまー!」
十三歳の少年が元気いっぱいに入ってきた。
茶髪を一つ結びにしたアレル・アシュリー、レイナの兄。
「アレル兄様が……帰ってきたのよ」
母、リリアンヌが嬉しそう涙ぐんで言う。
勿論、ゲームに出ていないのでレイナは知らない。
(誰この人!?)
「久しぶりだね、レイナ! 大きくなったなぁ! 前に会ったのはレイナが一歳の時かぁ……懐かしいな」
(会った事ある人なんだ……でも一歳!? だからレイナの記憶にも無いのね)
「レイナ、久しぶりの再会! 記念にハグしよう!」
「ひゃ、ひゃいっ!?!? ち、近い、近いですっ!」
(陽キャ!? 無理無理無理!!)
アレルはニコニコと近寄り、手を広げて言った。
「ハグしよう! レイナ、ハグしよ!」
「わわわ、む、むりぃ……」
麗奈は心の中で発狂寸前。
しかし父はにこやかに見守る。
「え〜いいじゃないか、妹なんだから!」
「あ、あば……っ」
(距離感って知ってます!?!? プライバシーって単語、辞書に無いの!?)
しかしアレルは笑って頭をなでてくる。
「レイナ、可愛いなぁ〜」
「ち、近い、ですぅ」
マリアが目を輝かせる。
「まぁ……兄妹の再会、尊いですわ……!」
(ちょっとマリア!? 助けて!? 止めて!?)
「レイナ、彼は小さい頃屋敷から竜の風で吹っ飛んで戻れなくなったけど、修行を経て帰ってきたんだ。丁度二年前位かな」
(ふ、ふ、吹っ飛ぶぅぅ!?)
アレルはすぐさまレイナに近寄る。
「せっかくだし、一緒に魔術の練習しよ!」
「え、えぇっ!? な、なぜ……」
* * *
レイナは少し距離を置きつつも、仕方なく教わることに。
アレルは笑顔で丁寧に教えてくれる。
「火属性は手首をこうね……ほら、こうすると炎が安定する」
レイナは小さく息を吐く。
(……凄い、丁寧……けど、陽キャすぎて死ぬ……)
十分後。
「詠唱のタイミングが早いよレイナ! 焦ると魔力が暴走するよ?」
「え、えぇ!? あの、ま、まを、とるの、にがてでぇ〜」
「じゃあ落ち着いて……風よ、集えから言ってみて」
レイナは真剣な顔で両手を構える。
「か、風よ、集え……!」
――ゴォォッ!!
風が巻き起こる。
「おっ、いい感じ! そのまま、我が手に宿れ!」
「わ、わがてに……やど……ぐえっ!? かぜつよっ!?!?」
「集中! 手を下ろすな!」
「むりむりむりぃぃぃぃ!!」
* * *
二人で魔法の詠唱練習をしていると……。
「ガッシャーン!!」
突然、屋敷の窓が割れる音。
「侵入者だっ!」
アビスの声が遠くから響く。侵入者はアレル達に近い。
アレルは瞬時にレイナを抱えて安全な場所に避難させる。
「レイナ、そこに居て!」
侵入者がアレルに剣を振り上げる。アビスやリリアンヌは遠い場所に居て、時間的に来れない。かと言って、最初から距離的にアレル達が逃げる事は……。
(いや、相手は大人よ!? 十三歳のアレルお兄様には対処出来ない!)
だが、アレルは魔術を詠唱しながら、瞬時に対応。
さっきまでの笑顔が消え、目が鋭く光り、アレルが剣を抜く。
「――風よ、刃となり、闇を裂け!」
――シュッ!!
突風が走り、侵入者の手に持っていた短剣を吹き飛ばす。
そのまま魔力の鎖が生まれ、侵入者を拘束した。
(……う、うわぁ……かっこいい……)
一瞬で制圧した兄の姿に、レイナは言葉を失った。
「大丈夫だった?」
「は、はい、あり、がと、ござい、ましゅ…!」
アレルは安心したように笑う。
「よかった! ……じゃあハグしよう!」
「え」
(台無しぃぃぃ!!)
侵入者はそのまま逮捕され、屋敷は再び静寂に包まれる。
「レイナもやってみる? 風魔法、楽しいよ?」
「……えぇぇっ!?」
レイナは後ろに下がるが、アレルは優しく手を差し伸べる。
「大丈夫だよ、怖くないから」
(……いや怖いから!!)
心の中で絶叫。
「今日はなんだか騒がしいね」
薄い桃色の髪に、エメラルド色の瞳。
アシュリー家次男、ルージュ・アシュリー(五歳)だ。
(ルージュってこの子? 桃色の髪はお父様に似てる……)
「ルージュ! 久しぶり、大きくなったなぁ!」
アレルの大きな声が響く。
「お兄様!? 無事だったんだ……心配してたんだよ?」
「ごめんごめん……折角だし、一緒に遊ぼーよ!」
このハイテンションは抑えられないのか?
「子供じゃないんだから……」
「十三歳は子供だよ! てかルージュも子供じゃん!」
(三歳は子供なのかな……?)
レイナは少し遠慮がちに二人に話し掛ける。
「じゃあ、三歳、はこども、です、か?」
「子供に決まってるでしょ!? 何故聞いた!?」
アレルの大きな声で、レイナはさっきから鼓膜が潰れそうだ。
(陽キャ過ぎて死ぬ……!)
アレルがレイナを見て満面の笑みで言う。
「さてと、話も済んだ事だし……レイナ、ハグしよう!」
「何でそうなるんですかあぁあぁぁぁぁ!?」
父、アビスは……。
(微笑ましいなぁ……)と考えながら、ニヤニヤしていた。
「さあ! レイナ、ハグしよう!」
「嫌ですぅぅぅぅ!!」
(この子ブレないな……!)
「レイナ、ハグしよ!」
(誰か止めてええぇぇぇぇぇぇ!!)
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次回『陰キャとパーティー』
転生悪役令嬢は、破滅フラグを破壊したい! 甘寺らいか @noakko
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