――もっとああすれば、なんてのは寝言だ。もっとああできないやつなんだっていう、それだけの話だ。俺も、おまえも、他のみんなも
作中より。
善人だから与えられたわけでも、努力してたから報われたわけでもない。望んですらいない。
ただ拾った。
聖剣と、おそらくは業深き妖刀を。
主人公のD級ダンジョン清掃員トールは決して善人ではない。けれど悪人でもない。選ばれし人間ではないものが一振りでもバランスブレイカーな伝説の剣を二本も拾ってしまうのは、ファンタジーの中でも偏ってファンタジーな設定。でもその理不尽は作中うまく消化されていました。
聖剣のヒロインティアに対して、主人公も妖刀を持っていることで存在感が競り負けないし、チートすぎて現実感ないという展開でもない。
本作は、設定とうってかわって写実的です。
現代と異世界が融合してしまった本作世界は、剣と魔法がありながら価値観は一般労働社会のまま世知辛い。清掃員はコネで立場を得た受付嬢に見下されている。
けれどその分トールも含め凡人……人のカッコ悪さに体温があります。
前述の受付嬢、生まれつき才能に恵まれイージーモードしか知らないアイドル冒険者。本作では誰もたまたま生まれつきのガチャに勝った「運が良かっただけの凡人」のように見える。その理不尽がトールの成り上がりに現実感を持たせています。
けれど彼女らが空っぽの人物に書かれているかというとそうでもない。
誰もその人なりにそう生きるしかなく、それぞれ与えられた立場に対し人間らしく至らず、失言し、見誤り、窮地に陥り、もがくように生きている。それは笹森のような足を引っ張ることを生き方としてきた人物でも書かれている。
自覚して謙虚な者もいれば、自覚せず他人ばかり見下す者もいるにせよ。
偉人なんて美化の中にしかいない、
トールは「できない」ことを悪いようには言わない。もっとああできないやつなんだっていう、それだけの話。人は等しく凡人なのかも知れない。
剣を持たない頃、トールは清掃員として「迷宮暴走」を防ごうとしていた。彼に出来ることがそれしかなかったから。剣を持っているかどうかはトールにとって重要ではないのでしょう。
本作の謎は二振りの剣と「迷宮暴走」という災厄を焦点に深まっていきます。数奇な運命になると思われます。
まだ連載中ながら、カクヨムコンテスト最終日をもってレビューを書かせていただきました。