黄金の羽音

スター☆にゅう・いっち

第1話

未来の宇宙。

 人類はすでに数多の星を切り拓き、資源を求めて銀河を渡り歩いていた。

 惑星〈エルド・セラ〉――恒星アリオス第七惑星。表面の大半を砂漠が覆い、夕暮れ時には空が血のように赤く染まる。


 その地に、地球連合探査隊〈プロメテウス〉が降り立った。


 砂の丘を越えた先、巨大な岩の割れ目の中で、隊員の一人、技術士官のハルベルトが叫んだ。

「見ろよ、これ……! 黄金の繭だ!」


 陽光を反射して輝くそれは、確かに生物の繭のようだった。しかし、その表面はまるで金属を磨き上げたかのように滑らかで、軽く触れると微かに振動する。

 科学主任のリーネ・ウォーレン博士は慎重にスキャナーをかざした。


「生体反応あり。しかも……驚いたわ、金の濃度が異常に高い。まるで金属を代謝しているみたい」


 記録官が呟く。「まるで生きた鉱物だな……」


 そこへ、近くの岩陰から先住民が姿を現した。彼らは細身で灰色の肌を持ち、金属ではなく粘土のような装飾を身に着けていた。

 言葉は翻訳機を通じて響く。


「それは……“ゼル・アム”――天の甲虫。神の使いだ。触れてはならぬ。羽化の季節に目覚め、天を金で満たす」


 だが、隊長カークランドは苦笑した。

「ありがたい警告だがね、こちらは科学者だ。神話より現実を信じる」


 博士が眉をひそめた。「隊長、本当に回収を?」


「もちろんだ。これだけの希少金属生物、地球じゃ一個で研究所が建つ。先住民の迷信で見逃す手はない」


 その夜、キャンプでは隊員たちが低い声で囁き合った。

「地球で売れば一生遊んで暮らせるな」

「十年に一度しか羽化しないらしい。つまり、今がチャンスだ」


 翌朝、金属探知機の反応が砂漠に響いた。

 百を超える黄金の蛹が掘り出され、無機質な箱に詰められていく。

 先住民たちは遠くから沈黙して見守り、やがて祈るように砂を頭に振りかけた。

 それが、彼らの別れの儀式だったことを、誰も知らなかった。


 ***


 数日後。

 〈プロメテウス〉号は大気圏を離れ、衛星軌道に乗った。

 貨物庫には密閉された黄金の蛹がずらりと並ぶ。外殻を透かして見える脈動が、薄暗い光の中で不気味に明滅していた。


「酸素量が微妙に減ってるな……?」

 航行士が首をかしげる。

「気のせいだろ。貨物に反応があるのかもな」

 そう言って笑い飛ばした瞬間――低い共鳴音が船体を揺らした。


 ぴしり、と鋼板が裂ける音。

 黄金の繭が、まるで生き物のように震え始めた。

 次の瞬間、殻が割れ、眩い光が貨物庫を満たす。


 羽化した黄金の甲虫たちは、広げた翅で周囲の金属を貪るように食い始めた。

 制御盤、床、壁、酸素配管、外壁――すべてが彼らの餌だった。

 アラームが鳴り響き、乗員たちが悲鳴を上げる。


「やめろ、船が――!」

 だが、叫びもむなしく、黄金の群れは船体を穿ち、宇宙空間へと飛び散っていった。


 最後に通信室から流れた記録音声が、地球の受信局に届く。

 ──「神は……本当にいたのかもしれない……」


 通信はそこで途絶えた。


 ***


 一方、惑星〈エルド・セラ〉では――

 夜空に無数の金の光が流れた。まるで星屑の雨のように。

 先住民たちは静かに空を仰ぎ、黄金の抜け殻を祭壇に捧げる。

 彼らの巫女が低く祈りの言葉を唱える。


「ゼル・アムよ、天の道を清め給え。欲深き者を遠ざけ、我らに恵みを」


 その夜、風はやわらかく吹き、翌日には砂漠に珍しい花が咲いたという。

 豊かな収穫と平和を祈りながら――宇宙のどこかで、何が起きたのかを知ることもなく。

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