第1章 はじめの一歩  第9項 亜神は注目される

第1章 はじめの一歩

 第9項 亜神は注目される


どうやら俺は、ヤクザっぽい連中に“連行”されている。

右も左も屈強な男たち。

肩には刺青、腰には短剣。

道行く人々は一瞬こちらを見るが、すぐに目を逸らす。

——はい、完全に“ナワバリ関係の方々”である。


「なぁ……どこに連れていくんですかね?」

「すぐ分かるさ」

無表情の男が低く答える。

声に笑いが混じってない。冗談でもない。


人通りの少ない路地を抜け、朽ちかけた倉庫のような建物に着いた。

どうやらここが目的地らしい。

中は薄暗く、煙草の煙と酒の匂いが混じっている。


奥の椅子に腰かけていたのは、見るからに“ボス”といった風格の男。

筋骨隆々、片目に眼帯。

その隣には、貴族のように上品な服を纏った女性が座っていた。

……いや、場違いにもほどがある。


「客人、こいつが例のヤツです」

「ふむ。ご苦労。……そいつ、少しコソコソ嗅ぎ回っていたようでな」


女性が静かに言った。

その瞬間、空気が変わった。

次の瞬間——。


ズバンッ!


風が走ったかと思うと、周囲の男たちの首が一斉に宙を舞った。

一秒前まで立っていた連中が、誰一人として声を出す暇もなく倒れ伏す。

床を鮮血が滑り、鉄の匂いが広がった。


「うわっ……え、なにこのスプラッター展開!?」


恐怖で一歩後ずさる俺。

そして女性と目が合った。

その瞳が一瞬、真紅に染まる。


「そなた、やるではないか! 神殺しのオールデスに耐えるとは!」


彼女の身体が光に包まれ、次の瞬間、姿を変えた。

豪奢なドレスは黒い霧に溶け、代わりに漆黒の翼と尾が現れる。

肌は白磁のように滑らかで、瞳は血のように赤い。

角が生え、笑みは妖艶で、しかし底知れぬ恐怖を孕んでいた。


「……悪魔、だと?」

「そうだ。妾は地獄の第六軍を統べる者——リリテア。神殺しのオールデスを携える者よ」


その手には、紫の紋様が脈動する短剣があった。

まるで呼吸をしているかのように、刃が生きている。


「そなた、妾の興味を引いた。面白い……少し遊んでやろう」

悪魔の唇が吊り上がる。


「……いや、遠慮しときます」

本能が警鐘を鳴らす。これは絶対にヤバいやつだ。


次の瞬間、俺は右手を軽く振った。

——閃光。


バシュゥンッ!!


紫の光と黒い翼が交錯し、轟音が室内を震わせた。

煙が晴れると、悪魔リリテアの姿は消え、残ったのは床に突き刺さった紫に輝く短剣だけだった。


「……勝った、のか?」

「いえ、消滅確認は取れておりません」

聖剣の声が冷静に響く。

「ですよねぇ……」


とはいえ、悪魔本人が消えたのも事実。

俺はおそるおそる短剣を拾い上げた。

紫の刃が微かに唸り、手の中で脈打つ。


「……お、お土産ってことで」


——


街へ戻る道すがら、短剣の光はまったく収まる気配がなかった。

むしろ輝きが増している。

通りを歩けば、みんな振り向く。


「いや、これは……目立つってレベルじゃねぇな」


袋に突っ込んでみるが、光が漏れ出している。

紫の閃光がまるで灯りのように通りを照らす。

夜道では便利かもしれないが、今はただの迷惑だ。


「どうしたもんかな……」


立ち止まって考えていると、通りの向こうからローブ姿の女性が近づいてきた。

杖を持ち、胸元には魔法協会の紋章。

間違いなく魔法使いだ。


「君、それ……解放状態の武具じゃない? 危険だよ」

「解放? いや、これ拾っただけで……」

「ちょっと貸して、鑑定——!」


彼女の目が見開かれた。

「こ、これは……神具?! しかも、効果が“周囲の首を狩り尽くす”って書いてあるじゃない!! な、何この物騒な設計!」


「いや、俺に聞かれても……」

「いやぁぁぁぁ!!!」


魔法使いは叫びながら、その短剣を投げ返してきた。

「うわっ!? ちょ、やめっ!」

反射的にキャッチ。


「触るな!離れろ!!」

そのまま悲鳴を上げて全力疾走で逃げていった。

……さっきまで冷静に鑑定してた人だよね?


短剣は相変わらず紫に輝いている。

周囲の人々が距離を取り始めた。

路地裏の猫まで逃げる。


「……うん、もう帰ろう」


袋に詰め、できるだけ隠すようにして宿へ向かう。

途中、路地裏から誰かの悲鳴が聞こえた気もしたが、今日はもう関わりたくない。


神具の鞘に悪魔の短剣——そして無限に続く注目の視線。

どうやら俺の“静かな生活”は、また遠ざかっていくようだ。


アレク レベル75

職業  亜神

HP 84

MP 84

体力 79

魔力 79

機敏 79

幸運 255

スキル 意思疎通 状態不変 限界突破

所持金 2950ポンド

所持品 聖剣エクスカリバーの鞘

    紫に光る短剣

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貧乏のあじんさま いまざや @yama456

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