第1章 はじめの一歩 第8項 亜神は探索される
第1章 はじめの一歩
第8項 亜神は探索される
街に戻ると、いつもの露店通りが妙に静かだった。
古物屋のあった場所を覗くが、やはり店は無い。
昨日と同じく看板ごと消え、代わりに砂埃が風に舞っているだけだ。
「……うん、やっぱりいないよね」
素材屋も見当たらない。
不思議に思って隣のパン屋の親父に尋ねると、驚くような話を聞かされた。
「お前、知らんのか? 二人とも王宮に呼ばれたんだとよ」
「王宮に?」
「ああ、昼過ぎに豪華な馬車が来てな。あんな立派なの、王族専用だぞ。お偉い方に買われたんじゃないか?」
……嫌な予感しかしない。
俺が売ろうと思っていた素材、実はとんでもないものだったんじゃ……?
途方に暮れていたら、通りすがりの奥様が教えてくれた。
「この通りね、正式な店舗じゃなくて“自由市場”なのよ。要はフリーマーケット。
許可さえ取れば、誰でも売り買いできる場所なの」
「なるほど……」
つまり、出店も撤去も自由。
怪しい物を売っても、あくまで“自己責任”ってことか。
それを聞いて、ふと思いつく。
素材屋も古物屋もいないなら、自分で売ればいい。
売る品は——
血の付いた剣、白い玉、古びた本。
計3点。
正直、相場なんて分からない。
とりあえず、1つ1000ポンドで並べてみる。
「安いんだか高いんだか分からんけど……まあ、売れたら御の字だな」
露店台の上に並べ、椅子に座って数分。
最初の客が現れた。
ローブを深く被った男だ。
「これは……どこで手に入れた?」
「森の中で拾いました」
「森、ね……」
男は手を震わせながら3点を指差した。
「これと、これと、これを貰おう」
支払いは即金。
ミラクルな3000ポンド。
「え、全部買うんですか?!」
「うむ、良い買い物をした」
男はわずかに笑い、あっという間に姿を消した。
売れた。
しかも即完売。
……だが、なんだろう。
去り際、あの客、微妙に震えてたような?
まぁいいや。3000ポンドも手に入ったんだ。
「やっと安定した生活が……」
その瞬間、背後から声が飛んだ。
「そこを動くな!」
振り向くと、鎧姿の憲兵隊が10人以上。
完全に包囲されている。
「え? 何かの間違いじゃ——」
「君が販売していたのは、危険極まりない“召喚の宝玉”という戦略級破壊兵器だ。知っていたか?」
「……まじで?」
「知らないのか?」
「知りませんでした!」
即答。心からの叫び。
「ふむ……」
憲兵たちは俺を囲んだまま、何やら呟いている。
「……どうだ?」
「反応は無し。虚偽反応ゼロです」
「そうか」
(え、なにそれ。嘘発見魔法?)
混乱していると、先ほど質問してきた将校らしき男が再び近づいてきた。
「君は嘘を言っていないようだ。だが、念のためいくつか質問をさせてくれ」
質問内容はシンプルだった。
“どこで拾った?”
“なぜこの通りで売った?”
森で拾い、いつもの店が無くて困ったから、と正直に答える。
彼はうんうんと頷き、部下に小声で何かを伝えた。
「確認が取れた。君の疑いは完全に晴れたよ」
ふぅ……助かった。
「最後に教えてくれ。君を探す時はどこに行けばいい? 身元を証明できる人は?」
「孤児院出身です。神父さんに聞けば分かります。
あとは南の安宿に泊まってますけど……まぁ、看板が古くて分かりづらいかも」
「なるほど。感謝する。また必要があれば訪ねよう」
憲兵たちは礼をして去っていった。
……いや、こっちが感謝したい。
捕まらずに済んで本当に良かった。
だが周囲を見ると、通りの人々が全員こっちを凝視していた。
「えっと……見世物じゃないんですけど……」
気まずくなって早足で立ち去ろうとした、その時。
カツン、カツンと蹄の音。
振り返ると、豪華な馬車がこちらに向かってくる。
車体には王家の紋章、金の飾り、真っ白な馬。
「……また? 今度は何?」
馬車が俺の目の前で止まり、扉が開く。
中から現れたのは、絹のドレスを纏った美しい女性だった。
金糸の髪を編み込み、紫の瞳が印象的。
一目で貴族と分かる。
「そなたが“大魔道の書”を売った者であるな?」
「え? だ、だいまどうの……なに?」
「先ほど城に商人が現れ、姉上がその書を手に入れたのじゃ。
妾もそれを求めておるが、姉上は絶対に譲らぬ。ゆえに、直接そなたを訪ねた」
あの古びた本、そんな大層な名前だったのか。
俺が拾ったのは“ゴミ”じゃなく“国家レベルの財宝”だったらしい。
「申し訳ありません。その書は一冊しか……もう手元には」
「そうか……残念じゃな」
落ち込んだように見せかけて、彼女はふっと笑った。
「だが、もし再び見つけたなら、妾の屋敷へ届けてくれ。
代金は姉上の倍を支払おう!」
「に、2倍に?!はい!全力で探します!!」
「よい返事じゃ。これを持ってこい」
彼女は金属の紋章を手渡し、優雅に馬車へ戻った。
蹄の音を残して去っていく。
街の視線はさらに集中する。
今度は羨望と恐怖の入り混じったような。
「……やばい、これ完全に有名人コースだな」
逃げるように歩き出したその瞬間——。
ガシッ。
左右から逞しい腕が伸び、俺の体を押さえつけた。
黒いコートに無表情の男たちが数名。
全員、腕に王国紋章の刻印。
「ちょ、ちょっと!? 今度は何!?」
「静かにしてもらおう」
「え、拉致?!」
次の瞬間、袋を被せられ、視界が暗転した。
——再び、運命が動き出す。
アレク レベル52
職業 亜神
HP 61
MP 61
体力 56
魔力 56
機敏 56
幸運 255
スキル 意思疎通 状態不変 限界突破
所持金 3000ポンド
所持品 聖剣エクスカリバーの鞘
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