家族
ジミーとノア
第1話
雨の降りしきる夜、川島美咲は橋の下で震えている少年を見つけた。
薄汚れた服に泥だらけの靴。まだ十歳にも満たないだろうその子供は、誰かに追われているような怯えた眼差しで美咲を見上げていた。
「お母さんは?」と尋ねても首を振るばかり。警察に連絡すべきか迷ったが、「おねがい……つかまっちゃう」と言う少年の必死な声に胸を打たれた。
一人暮らしの古いアパートに戻り、少年を風呂に入れると驚いたことに傷一つなかった。
栄養失調気味だが健康的な肌。むしろ奇妙なほど整った顔立ちだった。彼は自分を「翔太」と名乗った。
次の日から不思議な日々が始まった。翔太は何も食べず眠らず、ただ美咲の姿を目で追いかけるだけ。
美咲が料理をする間も、仕事をしている時も、トイレに行くときさえ後ろからじっと見つめていた。最初は気味悪く感じたが、次第に慣れてしまった。
三日目の夕方、帰宅すると部屋が暗かった。翔太を探し回っていると、クローゼットの奥から声が聞こえる。
「どうしたの?」
ドアを開けると、そこには信じられない光景があった。翔太と同じ顔の少年たちが十人以上、美咲の部屋の家具に身を隠していたのだ。
「おかえり」
彼らは一斉に振り返り、「美咲さん」と呼んだ。
「あなた……翔太なの?」
震える声で尋ねると、先頭の少年が微笑む。
「うん。でももう違うよ」
その瞬間、天井の電気が消え、壁から無数の手が伸びてきた。
美咲の叫び声は誰にも届かない。この古アパートにはもう何十年も前に一家全員が行方不明になっていたことを彼女は知らなかった。
翌朝、管理人が部屋に入った時には誰もいない。ただテーブルの上に一通の手紙だけが残されていた。
『美咲さんへ
今日から私たちと一緒に暮らしてください
家族が増えました
嬉しいです』
住所も署名もないその便箋には、小さな手形がいくつも押されている。
家族 ジミーとノア @Zimino_02
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