生ゴミ処理機
些阨社
生ゴミ処理機
家に何故か生ゴミ処理機がやって来た。突然業者が雪崩込んで来てあれよあれよと言う間に設置して帰って行ってしまった。その機械のサイズは大きめの洗濯機ほど。本体上部には水道水を取り込むホースと生ゴミを擦り潰すディスポーザーが付いていて、本体下部から出るパイプはそのまま下水の管に繋がっている。外観に繋ぎ目は見当たらず角はスムーズにRが取られていて、白い塗装と併せて清潔感を醸し出している。操作部はオン・オフのスイッチのみで、ディスポーザーにゴミが入ると自動で動くようだ。どこの製品かは分からないが、ローマ字でkyoseiと書かれている。取説には夜九時から翌朝六時まで内部処理の関係で使用不可となっている。守らないと腐臭が発生するらしい。この大きさで一人サイズと言うのだから場所を取りすぎる。売れないのだろうか、ただで送り付けるなんて。
一人暮らしの家に、大きな生ゴミ処理機。横に座るとほぼと同じ大きさだ。その大きさの物を捨てるにもリサイクル料とか、持ち出すにも一人じゃ無理だし、業者だと金がかかるし、取り敢えず置いておこうか。そう言えば、取説には極力毎日ゴミを入れるようにと書いてあった。動かさないと動かなくなるのは電化製品にもよくあるのだろうか。
ゴミを入れてみた。ゴリゴリとディスポーザーの音がする。音が出るのはそこだけでその後は静かになった。
父も母も早くに他界し、ただ一人の肉親である兄も高い塀の中にいる。そのために戸籍を整理し、引っ越しをする羽目になった。一人暮らしなのはそのせいだ。連続通り魔殺人犯と言うかなりの大犯罪者である兄のせいで俺の人生は大いに狂わされ、今も生活保護を受けながら、働くでもなく、外に出るのも飯を買うくらいで殆ど家にいる。
生ゴミが無くなって来た。そもそも残すほどの飯なんて買わない。何か食わせれば良いのだろうから、そこら辺の虫を入れておいた。ついでに外の雑草も。
久し振りに酒を飲む機会があって楽しんでいたら飲み過ぎたようで家に着いた途端吐き気を催した。トイレに駆け込む時間が無かったから処理機にぶち撒けた。処理機はいつも通り作動し、汚物を飲み込んでいく。
何通目かの兄への手紙を投函し昼飯を買った後、何気なく商店街を歩いていると電気屋のテレビ達が同じニュースを流していた。
「死刑廃止から今日で十年。人権擁護団体の代表にお話を……」
そうか、死刑が無くなって、そんなに経つのか。重罪人も法に殺害されることが無くなった。
「無期懲役者が増えすぎた今、刑務所負担軽減策として、新しい贖罪の方法、戸別訪問形式の奉仕刑務作業実施に向けて現在政府、司法と協力して数年前から実証実験を行っており……」
外面は良い兄だが裁判では死刑にならないからとかなり舐めた態度をとっていた。血を分けた兄弟として恥ずかしく申し訳無く、腹立たしかった。
「先ずは死刑相当とされる受刑者から実施され……」
家に帰るとあの生ゴミ処理機が鎮座している。
それは清潔感のある白い箱の中にグロテスクな腐った汚物を溜め込んでいる。
小綺麗な外見の中に歪んた人格を持つ兄と同じだ。
一息ついたら今日も処理機が壊れないようにゴミを入れる。
ディスポーザーが動きだす。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……
生ゴミ処理機 些阨社 @plyfld
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