05.塩
マックは、ごちそうだ。
テリヤキソースが口いっぱいに広がったら、牛のことを考えてしあわせになるし、ポテトのあつさで土と油を思い出す。
学習発表会のリハーサルは午前じゅぎょう。
帰りにそのままシュウジの家に来たオレは、ハンバーガーをコーラで飲みこんでた。
「シュウジのお母さん、ありがとうございます」
ユウタが言って、カナエもありがとうございますと続いた。
「あいがほ、ごはまふ」
言いおくれてことばにつまった。ていうか、ポテトに。
「ちゃんと噛んで食べてねー。ハンバーガーとポテトも、ひとつずつ余ってるよ」
シュウジのお母さんはそう言って、ハンバーガーとポテトをもう1セット、テーブルのまんなかに置いて、部屋から出ていった。
「あまったの?」
カナエが聞いた。さっそくみんなのポテトをまんなかに集めて山にしてしまった。
「ニシも来るはずだったんだよ」
ユウタにハンバーガーとジュースをわたしながらシュウジが言った。
「そうなんだ」
「ニシってだれ?」
カナエがポテトを1センチだけかじって聞いた。
「ニシはサッカークラブでいっしょのやつ。オレの親友」
「は?」
オレの口からまぬけな声が出た。
「あいつさ、今日はアシカーー」
「ちょい、ちょい待って?......ニシが、おまえの親友なの?」
声がうらがえった。
シュウジがうなずく。
「うん」
「お、オレは?」
ずずずずず...。
ユウタがストローからメロンソーダを吸う。
みんなだまって、へんな間があった。
「あー、ほら、あれじゃん。おまえの親友ってユウタじゃん」
「いやいや、おちつけよ。オレはシュウジの親友、だろ?」
「だからユウタがおまえの」
「ちっげーよ!ユウタはちげーって」
「え?」
ユウタがストローから口をはなした。
「オレたち親友じゃないの?」
ユウタがオレを見つめてる。
オレの目がテーブルの上のポテト山をおよいだ。
「んん、親友とか親友じゃないとか、そういう話はやめようぜ」
ずずずず…。
コーラを飲もうとストローに吸いついたけど、とけた水と空気しか入ってこなかった。
「ハル…」
シュウジがじとっとした目で見てくる。ポテトをとろうとしたら、カナエに手をはじかれた。
「いや!ごめんユウタ。でも、ぶっちゃけ親友ってほどじゃないっていうか、オレらってフツーの友達じゃん」
「フツーの友達......」
ユウタはうなだれた。
うなだれながらハンバーガーをほおばった。
「ねー、あたしはー?だれと親友なの?」
「カナエは女子だから」
ユウタがぼそっと言った。
「だよな。女子は親友になんねーよな」
オレもとりあえず合わせとく。
「はあ?なにそれ、だれがきめるの?」
「オレら女子とあんまあそばないし」
「いまあそんでんじゃん!」
カナエはポテトを1センチずつかじるのをやめて、山から手づかみで一気に口に入れはじめた。
「でも、女子と男子で親友みたいなの見たことないべ」
シュウジはもう自分のハンバーガーを食べ終わって、ニシのぶんのハンバーガーに手をつけてた。
「ウチら、アシカワくんとあそんでるもん」
「どーゆーこと?」
「アシカワくん男子だけど、女子ともいっぱいあそぶよ」
「男子?アシカワっておとこなの?」
オレはすかさず聞いた。
「それはナシっしょ。だってアシカワだもん」
「待って、アシカワっておとこなの?」
オレはもういちど聞いた。
「知らなかったの?ぜんぜんそう見えないよね。きれーだし、かみもボブにしてるし」
「ボブ?」
「あっハルもしかして」
カナエの目が光った。
「いやちげーよ」
「好きになったんだ!」
「えっ、おまえアシカワ好きなんだ!」
「だからちげーって!やめろキモチワルイ!」
ユウタのメロンソーダを引ったくって飲んだけど、ほとんど残ってなかった。
「ムキになってるー」
「んだとコラ」
口をはさんできたユウタをにらんだら、ポテトを口につめこみだした。
「あ、でもさ。そんならハルはアシカワと親友なれるかもじゃん」
「は?」
「男子だからってそれはナシでしょ。アシカワくんだもん」
「そうかなー」
2人とももうおなかいっぱいみたいだ。
シュウジは腹をぽんぽん叩いて、カナエは床に転がりだした。
見てると、ちょっとむねがイライラしてきた。
「アリかも。オレはアシカワとあそんでもいいし」
言ってみたら、シュウジが体を起こしてテーブルにヒジをついた。
「じゃーあそぼうぜ。カナエ仲いいんだべ、さそっといてよ」
「ぜったいイヤ。自分でさそったらいーじゃん」
そう言ってカナエが出てった。
カナエは気づいたら家に帰ってる時がある。
テーブルの上のポテトはもう白っぽくなって、輪ゴムみたいな味がした。
「そういや今日ニシが来なかったのも、アシカワとあそぶんだってさ」
シュウジが言って、テーブルのゴミをかき集めはじめた。
「…ゲームしようぜ」
ストローから口に引いた糸を切って、オレはテレビの前にすわった。
風になぐられて、まどがぎしぎしと音をたててる。
灰色のくもり空には、遠くから黒いカタマリがおしよせてた。
「雨ふりそうだね」
ユウタがつぶやいた。
水底の楓(仮題) 低泉ナギ @Eastern_wind
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