「パチスロ、スローライフ」

志乃原七海

第1話「さあ、朝からパチスロだい!」



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### 小説「パチスロパラダイス!!」


ピリリリリ!

枕元でスマホがけたたましく鳴り響く。画面には「鬼部長」の三文字。うるせえ。俺の戦場は満員電車に揺られた先のオフィスじゃねえんだ。


「さあ、朝からパチスロだい!」


寝癖もそのままにジャンパーを羽織り、俺は戦場へと向かう。

会社? そんなんいかん! 俺はこれで生きてゆく(笑)


ホールの扉が開くと、爆音とタバコの煙が俺を出迎えた。これだよ、これ。俺の魂が浄化されていく。目当ての台にどっかりと腰を下ろし、諭吉をサンドに滑り込ませる。


「さあ、稼ぐぞー!」


最初の千円でかかったリーチはあっさり外れた。まあ、まだジャブだ。二千円、三千円…諭吉が一人、また一人とサンドの闇に消えていく。


**1時間経過。**


「……あれ、おかしいな。でねーぞ」


液晶画面は静かなものだ。たまに煽ってくる演出も、俺をからかうようにスカッと終わる。俺の背後で鳴り響く他の台のファンファーレが、やけに癇に障る。


「店がなんか細工してんじゃねーの?」


眉間にしわを寄せ、俺はプロの目になった。遊技台の隅から隅まで、舐めるように視線を走らせる。


「台、改めさせてもらうぜい(笑)」


そして、見つけた。リール上部のスピーカーグリル、その無数の穴の一つだけ、質感が違う。目を凝らし、角度を変えてよく見ると、微かなレンズの反射光が見えた。


「……小さなピンホールカメラが。そういうことか!」


なるほどな。客の顔色をうかがって、店の都合のいいようにコントロールしてやがるんだ。俺はニヤリと口角を上げた。面白い。その喧嘩、買ってやろうじゃねえか。


俺はカメラのレンズを真正面から捉え、渾身の力でメンチを切る!

ギリッと奥歯を噛みしめ、眼力だけで「オイ、見てんだろ。わかってんだろうな?出せや、コラ」と無言の圧を送り続けた。


**その頃、店の奥、警備員室。**


モニターを眺めていた若い警備員が、コーヒーを噴き出した。

「店長! 15番台の客が! カメラに気づきました!」

モニターには、鬼の形相でこちらを睨みつけている俺のドアップが映し出されている。

「うわあバレたー(笑)」

丸椅子の店長が、やれやれと頭を掻く。

「店長…? なんか『出せ』ってにらんでますが?」

「チッ、面倒なプロ崩れに勘付かれたか。仕方ねーな、バレちゃあな(笑)」

店長はインカムを手に取り、小さな声で指示を出した。

「だしてやれ。一回だけな! お祭り騒ぎにされたら面倒だ」


**ふたたび、俺のパチスロ台。**


俺が睨みつけて数秒後、何の予兆もなかった台が、突如としてけたたましいファンファーレを鳴り響かせた! 液晶が虹色に輝き、祝福の嵐!


「キ、キ、キターーーッ!」


椅子から転げ落ちそうになるのをこらえ、俺はレバーを叩く。揃う、揃う、7が揃う!


「よっしゃ、連チャンだ!」


一回だけ? 聞こえねえな。俺のヒキはこんなもんじゃねえんだよ!

ドル箱は見る見るうちに積み上がり、俺は完全に有頂天になっていた。


**しばらくして。**


肩をトントン、と叩かれた。振り返ると、屈強な警備員が二人、仁王立ちしている。

「お客様、大変盛り上がっているところ恐縮ですが」

「おう、なんだい!今いいところなんだよ!」

「店長から『もう十分でしょう。速やかにつまみ出せ』と(笑)」


「はあ!?」


有無を言わさず、俺の両脇はガッチリと固められた。

「ちょ、待て!俺のパラダイスはこれから始まっ…!」

抵抗も虚しく、俺はドル箱の山を背に、ズルズルと店の出口へと引きずられていく。自動ドアの外にポイっと優しく放り出され、背後で無情にも扉が閉まった。


「……ちくしょう、覚えてやがれ!」


アスファルトに吐き捨てたが、ズボンのポケットに突っ込んだ特殊景品の重みが、妙に心地よかった。

(まあいい。今日の勝ち分で飲むビールは、最高にうまいだろうな!)

俺はニヤリと笑い、夕陽に向かって歩き出した。また明日も戦場に来ることを心に誓いながら。

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「パチスロ、スローライフ」 志乃原七海 @09093495732p

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