今日という日になんと、名前をつけようか。

たまちゃん

マリーゴールド

 ある夏の日、初めて君に出逢った。

その人は都会のビル群の中には似つかわしくない麦わら帽子と白いワンピースを着ていた。思わずその姿に目が釘付けになった。

僕の視線に気づいたのか名も知らぬその人は振り返り、笑って見せた。その笑顔を見て僕は人生で初めてマリーゴールドが揺れたような笑顔だな、と思った。僕はこんなことを思うよな文才があるような訳でもなく工業高校出身のただの社会人だったのだが。思えば、この時から僕は彼女の虜になっていたのかもしれない。その子は、赤目、銀髪で明らかにアジア系では無かった。他の人は何故か見えていないように感じられた。こんなに目立つのにどうしてだろう?

 気づいたら彼女に声をかけていた。今、思い出しても大変にヤバいやつである。だがなんとなく、ここで逃しては二度と出逢える気がしなかったのだ。

「あっ、あのすいません。一緒にお茶でもどうでしょうか?」

思い出したくもない彼女にかけた一言目のセリフだ。緊張しすぎて声が裏返ったのを覚えている。

「いいですよ。」

彼女は透き通った様な声で少し笑いながらそう言った。

後から聞いた事だが彼女は、鼻から僕のことを『待っていた』らしい。

 その後、僕と彼女は近くのカフェに行くことになった。ちなみにこのカフェも彼女の知り合いがマスターをやっているお店である。つくづく怖くなった。

「そういえば、貴方のお名前は?」

そうこのタイミングでの自己紹介だったか。

「あっと、これは失礼。僕は笹原真也と言います。」

「知ってますよ。」

「え?」

「念の為の確認です。」

知ってるってなんでだ?こんなでも僕の記憶力は結構いい方で今まで会ってきた人達の名前と顔ぐらいは一致するのだが。唯一覚えていないのは、小学校の転校前に仲良くなった子ぐらいだったはずだが、、、。いや、それ以外にも結構いそうだな。

「私は佐々木優衣です。」

「マスター、カフェラテとパンケーキひとつ。えーと真也さんはどうします?」

そう聞かれ、今まで考えていたことが全て吹き飛んでしまった。慌ててメニュー表を見ると、思わず絶句。なんだこのメニュー量は。

「ここのメニュー多いですよね。私も初めて来た時は驚きましたよ。真也さん小麦アレルギーはありませんか?」

「無い、、、です。」

「では、パンケーキがおすすめですよ。ここのパンケーキ美味しいんです。」

「では、それで。」

「かしこまりました。パンケーキ二つ、カフェラテ一つですね。少々お待ちください。」

「緊張、してます?」

「えっ、あっ、はっはい。就職面接ぐらいには。」

「それは、すごい緊張ぶりですね。私はそういった面接は受けたこと無いので分からないのですが。」

えっ、この子そんな歳下なの?

「ところで、真也さんはどんなお仕事をされているんですか?」

「工場勤務、、、です。」

「今日は、お仕事おやすみなんですか?」

「一応、そうです。」

「それは、良かった。この後、私の好きな場所にお連れしたいのです。」

「好きな場所?」

「えぇえぇ、それはもう綺麗ですよ。」

「わ、わかりました。」

この選択で僕の人生が大きく変わることになる。

「お待たせ致しました。こちらカフェラテとパンケーキ二つになります。」

「ありがとうございます。」

手元に届いたパンケーキは二段重ねになっていてそこにバターと蜂蜜が乗ったシンプルなものだった。

「では、頂きましょうか。」

遠くから店員とマスターの会話が聞こえてきた。

「良かったんですか?睡眠薬なんて盛って。」

「君も知っているだろう。彼女に逆らった者がどんな結末を辿るかは。彼には我々のために犠牲になって貰おう。」

その会話が聞こえた瞬間ナイフとフォークを置こうとしたが身体が言うことを聞かなかった。

「どうしたの?真也さん。」

そう言った彼女の目は紅く光り、その顔は笑っていた。パンケーキを一口食べた瞬間、僕は暗闇に吸い込まれた。一体どれだけ強い睡眠薬を盛ったのか、想像もつかなかった。









 あれから、どれだけ経ったのだろうか。

「あら、もう起きたのね。おはよう真也さん。」

この時の僕にはカフェで起きた記憶は一切残っていなかった。

なんで寝てたんだ?

それに彼女の服も変わっている気がする。

「優衣さんその服は?」

「あら、もう催眠が解け始めてるのね。」

「催眠?」

「気にしないでいいわよ。」

そう言った彼女の目は紅く光っていた。











「ここは?」

「ここは私が真也さんに見せたかった場所。」

その場所はカフェから車で数時間走ったところにあった。一面マリーゴールドだらけの花

畑だった。

「綺麗、、、。」

「でしょう。私の自慢の場所なの。ようこそ、私の庭へ。」

「ここが優衣さんの庭、、、。」

「そうよ。ほら、こっちへ、いらっしゃい。もっと綺麗な物があるわよ。」

優衣さんについて行くとそこには巨大な紅い宝石が宙に浮いていた。

「なんですか?この大きな宝石は?」

「ほんと、貴方本当に催眠に強いのね。」

「何か言いました?」

「いえ、何でもないわ。それより私の目を見てちょうだい。」

「え?なんでですか?」

「いいから。ね?お願い?」

「わかりました。」

「ヨシヨシ、いい子いい子。」

再び彼女の目が紅く光った。
























「痛ったた。」

起き上がると自分の体から大量の血が出ていた。

「シンヤさん!?大丈夫ですか!車から私を守るから。」

そうだ、僕は車に轢かれそうなユイさんを助けて、、、それで。

「シンヤさん。これを飲んでください。効くかは分かりませんが、極東の島国で使われている万能薬です。」

このままだと大量出血で死ぬ。

目の前に生があるのなら僕は、、、、、、。









「ありがとうございます。本当に良かった。」

そこで僕は意識が途絶えた。














「セバス。真也さんを私の部屋へ。」

「かしこまりました。しかし、休まれなくてよろしいのですか?あれほどの『力』を使われて。」

「セバス、勘違いしているようだけど、私は不死の吸血鬼よ。さすがに驚いたけれどこれぐらいどうって事ないわ。あの時の戦いに比べたらね。」

そう言い左眼に付いている眼帯を撫でた。

「かしこまりました。では失礼します。」

セバスがそう言い去った後一面黄色のマリーゴールドの花畑は紅く染まった。

「あぁ、今日という日になんと名前をつけようか!」

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