第8話 偵察と、遭遇と。
現世側でタイガーたちが新地獄に進入する準備をして間もなく、新地獄側のピリリはある事に迷っていた。
「うーん、タイガーたち仲間を待つのは当然だけど、はたして浄土ねずみの侍としては、それだけで良いのかな…せせりはどう思う?」
こちら側…新地獄にタイガーや祥子たちが来るには、もう少し時間が掛かるだろう。
それまでの間に、ここで先陣を切って敷き詰められた太陽光パネルの破壊を開始するか。それとも、仲間たちを大人しく待つか。
それが目下の問題であった。
「かあー…」
お供のせせりもそこは迷うところであった。一番槍か、安全性か。
先行した相棒が手柄を立てるのは良いことだが、仲間との連携が大事な事柄である。協調性も大事なのだ。
また、下手に行動することで、思いもしない事態が生じることもある。
かと言って、仲間を危険にさらす集光兵器の動力源を、少しでも減らしておければ、今後が有利になるのも確かだ。
どちらの行動も、メリットとデメリットが等しくあった。
そうせせりが考える間も、ピリリの言葉は続く。
「いやね、戦力が集まるまで耐え忍ぶのは王道だけどさ…ゲリラ活動も取るべき手段の一つじゃねって思う訳」
「かあああー」
「どうする気かって、こんな時のために俺は必殺剣とか磨いてきた訳じゃん? 厳しい修業を耐えてきた訳じゃん?」
スラリ。
せせりに、そう言って聞かせて腰の脇差を引き抜くピリリである。伊達に大業物(浄土ねずみサイズ)の太刀を背負い、脇差し大小を持っている訳ではない。
それを態度で、せせりに示して見せる。
東方浄土の脇侍を目指すピリリとしては、ここで大華流剣術や特殊歩法を実践して、自分のこれまでの修業の成果を実践すべきではと思うのである。
「かあー!」
「俺の好きにしろって?」
「かああ―――!!!」
こうなると、止ても無駄と感じるせせりである。ならば背中を押して、良い結果になれと願うのみだ。
「解った………よし決めた! 先行して一番槍を決めるぜ!」
「かああー!」
どうやら、せせりに自分の気持ちを話した過程で、ピリリの気持ちは一番槍へと固まったようだ。
若き浄土ねずみピリリの血は騒ぎ、その勢いはテンションをアップさせ、冷静沈着さより攻撃性を高めていった。
「いざ参る! おおおおおおおおおおっ!」
ダッ! タタタタタタタタタタタッ!!!
早速、隠れていたパネルから飛び出し、高速移動での移動を開始するピリリ。
まず、白詰草☘に乗って潰さず移動できるほどの高速歩法を実践。それで助走とし、然る後に空中を駆ける歩法に移行。空中最大到達点で必殺奥義の回転斬りへと持ち込む。
「かあー!」
「任せろせせり! 今こそ練習の成果を見せてやるぜ!」
背後からせせりの応援が聴こえる最中、すでに抜き放っていた太刀を尻尾に持ち変えるピリリ。腰の大小も抜き放ち、得物を所定の位置に据える下準備を終了した。
後は、空中に空高く跳躍して回転を開始。その余勢を駆って勢いのままに太陽光パネルへと突進するのみだ。
ダンッ! パッ! パッ! パッ! パッ! パッ!
「今だ!」
霊力を脚部に集中し、空中で
最大到達点で前方回転を開始する!
ギュルルルルルルルルルルルルルルッ―――――――――――――――――
―――――――バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
キラキラキラ! キラキラキラ! キラキラ! キラキラ! スタースター!
クルリーンッ!
バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ! バキィンッ!
キラキラキラ! キラキラキラ! キラキラキラ! キラキラキラキラキラ!
シュタッ! シャキィィ――――ンンン!!!
そうして、見事に並べられたパネルの一列すべてを回転斬りで粉砕し、そこから方向転換して、さらにもう一列のパネルを粉砕して見せるピリリ。
飛び散ったパネルの破片が光を乱反射し、一部が星のように輝く中、シュタッと着地を決めてシャキィィ――――ンンン!!!と太刀と大小の刀を掲げて見せるのであった。
「かあっ! ああああー!」
「解ってる解ってる! やるならちゃんと全部壊すって! 皆まで言うなよ、せせり!」
ザッ!
「第二段、行くぜ!」
ダッ! タタタタタタタタタタタッ!!!
そこから、二度三度と同じプロセスを踏んで、残りの太陽光パネル破壊を開始するピリリであった。
高台にある自動で動いて目標を捉える集光パネルも、さすがにピリリの速さには追い付けない。
集光、放射パネルに丸焼きにされることを避けつつ、ピリリは一方的な破壊工作を続行した。
ピリリのそんな作業によって、進入してきた場所から見渡せる範囲にあるパネルの半分は、短時間の内に破壊されていった。
パネルが多数破壊されたことで、放射した光を回収できないためか、心なし上空の発光体の輝きが減ったような気がした。
シュタッ! どさりっ。
パネルの破片が散らばる所から距離を取りって、格好良く地面に着地してから数秒後、ピリリは耐えきれずにポーズを崩し、両膝と両手を地面に付けて倒れ込んだ。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ………少し休もう」
「かあー」
流石に連続での必殺斬りの使用は負担が大きく、休息を必要とする浄土ねずみの侍であった。
脇差大小を地面へと突き立てて、早速、懐から丸薬を取り出すピリリ。体力の回復だ。
「あーん」
もぐもぐもぐ。
………ズン………ズン………ズン………ズン………ズン………ズン………
それは、ピリリが高カロリーの丸薬を口に含んだ少し後のことであった。
…ズン……ズン……ズン……ズン……ズン……ズン……ズン……ズン……ズン…
ピクリッ!
地響きを足の裏から感じ取り、ピリリの耳がピクリッと動く。そして、振動が近付いてくると思しき方向へと大きなねずみの耳を向ける。
壊れたパネル台を止まり木代わりに使っていたせせりも、異変に気付いたのか震動が近付いてくる方向へと顔の向きを動かす。
「…隠れるぞ」
小声でせせりにそう言うと、ピリリはせせりを頭に止まらせて、残ったパネルの下へと潜り込んだ。
そこから近付く存在を見極めるために、物音を立てぬ様にそちらへと双眸を向ける。
ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…ZUN…
大きい。
大きな両脚の持ち主がこちらへと近付いて来る。大きな両脚で大きな歩幅を取って歩いて来る。
パネルの下から見えたのは、その動く両脚のみだった。
両脚の大きさから全体を推測すれば、その持ち主は全長7メートルはあるかと思われる。パネルの下からでは視界が遮られ、当然、全体を捉えることは不可能だ。
意を決して、そーっと顏をパネルの下から出して、上方向を見上げるピリリ。なお、お供の相棒せせりは、自分の頭から地面に降ろしてある。
(! あのデッカイ身体の上の顏は………ネズデビ!)
巨大な存在の確認をすると、サイズはまったく違ったが、あの頭部のねずみ耳の形と下卑た表情は見覚えがあた。
自分は神だと言いたげな尊大な精神のネズゴット。
まるで悪魔のように残酷で醜悪な精神のネズデビ。
太古の哲学者然としていて頭が回るが、それはもっぱら悪事専門に使われるネズプラトン。
その浄土ねずみの鼻つまみ者、三馬鹿コンビの一角ネズデビと、近付いてくる巨大な鬼の顏は、瓜二つにそっくりだった。
なお、なぜピリリがあれは鬼だと言い切れるかといえば、生前のネズデビにはなかったモノが一本、額に生えているのを望めたからだ。
それはすなわち、一本の角であった。
(…堕ちるところまで堕ちたな…ネズデビ…いくら身体が大きくなっても…ああはなりたくはないもんだ…)
心底、そう思うピリリだった。
新地獄に取り込まれたネズデビは、太陽光パネルで集めた光で罪人を丸焼きにする、灼熱地獄の極卒鬼へと変じていた。
巨大な身体も、その新たに与えられた業務によるものだろう。
すなわち、罪人丸焼き用のパネルが破壊されたことによって、ネズデビ鬼は様子を確かめに来たのであろう。
元々解っていたことだが、ネズデビは敵であった。
ただ、まさか鬼となっているとまでは、ピリリも思ってもいなかった。
これよりピリリたちは、このネズデビ鬼を相手に一戦…いや、残るネズゴット、ネズプラトンを併せて最低三戦、苦しい戦いをやりとげねばならないのだった。
第8話 偵察と、遭遇と。 了 次回、遭遇と、戦いと。 に続く。
東海瑠璃光浄土抄 鼠浄土騒乱篇 @byakuennga
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