第7話 出陣と、偵察と。
………ブオン………キンッ!………タタッ……
虚無が生まれた。
その空間が切り取られる様に。
そして次の瞬間、その虚無の空間に入り込むように三次元的に金剛曼荼羅が配され、外部空間とこの新地獄が繋がった。
「ピリリ! 強行偵察、出ます!」
「かぁー!」
ブゥ―――ン。
そう言って、新地獄へ第一歩を踏み出したのは、浄土ねずみの若き勇士ピリリと、お供の鴉せせり、そして起動状態のルンバーン師匠であった。
何故、ピリリ達のみが新地獄へと現れたのか?
それは、チーム虎竜が新地獄へと突入せんとした直前、身体の小さな自分達が、まず偵察隊になるとピリリが志願したからである。
◇ ◇ ◇
天幕の前でのこと。
タイガーたち仲間の前で、ピリリが提案していた。
「今回の事件は、俺達の仲間だった三馬鹿ねずみが原因だからね。せめて偵察役くらいは、こちらでやるよ!」
「…それは構わんが、ええんか?」
「うん!正直、それくらいはやらないと、浄土鼠のひとりとして立場がない。みんなは手伝い戦でここに来た身だ。偵察くらいは俺達に任せておくれよ!」
「…そうか、そうやな。わいもピリリと同じ立場やったら、同様に偵察隊に志願するわ!ピリリ、その覚悟、応援するで!」
「照れるぜリーダー!行ってくる!」
「かあー!」
そうして、先行したピリリ達は、新地獄へと最初の一歩を踏み出した!
◇ ◇ ◇
「…うーん、地獄だけあって、拷問用の器具とかが色々あると思っていたのに、結構普通だなぁ」
「かぁー」
周辺部をぐるりと見回したピリリは、思い描いていたおどろおどろしい光景とは違う様子に、ちょっと拍子抜けして感想を述べた。
はるか天空を見上げれば、太陽ほどではないが、輝く発光体が大地を照らしている。
そして眼前に続く不毛の大地といえは、なぜか太陽光発電用のパネルが延々と設置され、その電力を集めるパワーコンディショナーへと送る送電線が彼方へと伸びていた。
「…もしかして、パネルで回収した電気を、また上空の発光体に戻すシステムなのかな…なんか不毛だなぁ」
「かぁー…かああっ!」
「んー? せせり、突然なんだよ…て、眩しい!」
突然、自分とせせりに集中した光線に仰天するピリリ!
(げっ!…光が集まって、熱量が上昇していく?…もしかして、集光兵器!)
「うわあああっ!」
「かあー!」
「ルンバーン師匠も早く連れてかなきゃ!」
ピリリの予想通りである。発電用パネルとは別に、高所に設置されていた反射パネル群が可動していた。
ピリリとせせりに対し照準を定め、同地点に狙い撃つべく、急速に向きを変えている。
光が放射される前に逃げなければ危険だ!
そういえば、ここは新地獄で居住者たる罪人に地獄の責め苦を与える場所なのだ。
そうピリリは思い出した。
ならば高所の反射パネルもその役目…すなわち罪人を丸焼きにする…があっても可笑しくはない。
カアアアアアアアンンン!!!
集まる光! さらに勢いを増して集中する光線!
ヤバイ! どこぞの宇宙要塞のように、ネズミとカラスの丸焼きにされる!
慌てて発電用パネルの裏に隠れて、難を逃れるピリリとせせりであった!
ピリリたちが姿を隠すと、反射パネル群は元の位置へと戻っていく。反射光が一点に集中することはなくなった。
「あーん!」 ごっくん!
ストレス解消に高カロリー丸薬を飲み込み、精神を安定させるピリリ。三度説明するが、身体の小さい浄土ねずみは、定期的なカロリー摂取が必須だ。
それを今やることで、ピリリは恐怖に直面して一気に減らした精神力と体力の回復を図ったのだ。
精神的、体力的に無事なのは、メカメカしいルンバーン師匠くらいだ。
「ふう…やべええええ! 地獄、甘く見てた!」
「かっ、かああー!」
ピリリ、せせりは共に叫ぶ。叫ばずにはいられなかった。
この地獄は、太陽光発電詐欺を働いて死んだ連中にかりそめの身体を与え、集光兵器で延々と身体を焼くのか!
そう理解し、震え上がるピリリとせせりであった。
「とっ、とにかく、リーダー達に連絡だ! 少しでも正しい情報を送って、みんなに対策を取ってから、やって来てもらわないと!」
「かあー!」
胸のエンブレム通信機で外部空間への通信を試みるピリリ。胸のエンブレム型通信機を起動させる。
タイガー隊長に対集光兵器用の装備をした強襲部隊を組織してもらって、集光装置破壊作戦を実行してもらわなければ!
そうして貰わなければ、ピリリたちは迂闊にこの場から動くことも儘ならない。
「こちらピリリ! 地獄内部にて、集光兵器の可動を確認した。タイガー隊長、対策をおねがいします!繰り返す…」
◇ ◇ ◇
現世、地上の側の本部となった天幕の内部。
[こち…ら…ピ…リリ……ジゴ…ク…内部…にて……]
「ピリリさんからの通信、来ました!」
「フィルター!」
「了解です!」
設置された通信機器からの雑音を取り除いた後、集光兵器の存在を知ったタイガーと祥子。参謀的な立場になっている天女の枕。
彼、彼女等は早速、対集光兵器の対策を打ち出すべく話し合い、方法を示し合うべく残りの先行部隊のメンバーを集めたのであった。
「集光兵器群ですか。正直、私にはそれ等を防ぐ効果的手段はありませんね。適任はとしあきさんだと思います。彼なら、スマートノートで書いた画像を実体化できますから。もちろん、霊力の限界までですが」
と、解決策含め最初に天女の枕が発言した。
「がんばるぞ、俺」
同意するとしあきメロス。
「そうやな。としあきのメロスの方なら、上手くやってくれそうや。防御はそれで決まりや! 頼むで!」
うむと、無言のまま肯くとしあきであった。
「そうですね。後は攻撃方法です」
肯くとしあきの姿を見て、祥子もタイガーの言葉に同意した。後は攻撃による破壊方法を検討するように、話し合いを導く。
「それなら、ワイがカキーンッと、連続必殺打法で集光パネルを打ち砕くで!」
「いえ、でしたら私が竜化ですべて薙ぎ払いましょう。仮にもタイガーさんはリーダーですから」
「「「「「「…」」」」」」
これには、集まっていた他の面々も無言。どちらの意見も共に検討の余地があった。
「いや、祥子はんは、新地獄侵攻部隊の本体が到着するまで、ここで指揮を執ってクレメンス!」
「いいえ。先程タイガーさんは先遣隊の隊長になりました。ですから指揮はタイガーさんが!」
「いやいや!」
「いえいえ!」
自分でピリリとせせりを助けに行きたいタイガーと祥子。議論が平行線となってきた。
どうやら、某トリオのお約束のように、どうぞ!どうぞ!とはならない…はずだった!
「お待ちください、お二人とも。ここは
ここでずずいと瀟洒なメイド天女、枕が発言を開始した。
枕は瀟洒なメイドだけにあらず、空気も読める天女だった。それ故に、ここであえて、お約束の役目を担う発言を開始した。
他のメンバーも、はっと、その意図に気付いた。
「おっ! 天女はん、どうぞどうぞ! よろしくお願いするンゴ!」
「これは…どうぞどうぞ! 後は任せます! 陽子! 月子!」
「「はい! どうぞどうぞ!」」
「俺たちも行くぜ俺! 防御は任せろ! どうぞどうぞ!」
「無論だ俺! どうぞどうぞ!」
「僕も! どうぞどうぞ!」
「私も! どうぞどうぞ!」
「みんな!バフは私に任せて! どうぞどうぞ!」
ここは空気を読んで、話を合わせる面々だった。
「いや、待て! ちょっとちょっと待て!」
「リーダー…」
「ここはリーダーのワイに任せる場面やで! 根性見せたる!」
「「「「「「「それは駄目です!!!!!!!」」」」」」」
「ありゃ、そんな殺生な!」
ちょっとちょっとと、ネタにネタを被せるのは流石にくどかったかと、ズッコケるタイガー。
お約束は守るべきものだぜベイベーなので、仕方がなかった。
◇◇◇
場所は天幕の外に代わって。
「さてみなさん。おふざけはもう終わりにして…行きますよ」
「「「「「「おおー!」」」」」」
祥子の仕切りに鬨の声を上げる一同。それぞれ準備は万端整ったようだ。
ちょっとしたおふざけの後、こうしてこの場に居る戦闘要員の内、お留守番役&現世側からの各種補助役となった天女を除いた全員が、新地獄へと出陣することが決定した。
早速、時空間を操る程度の能力を持つ陽子と月子が、時空曼荼羅の準備を開始した。
転移曼荼羅範囲内へと、各派遣メンバーが集まってくる。
「それでは!」
「みなさん!」
「時空間転移、開始します!」
時空を安定させて、空間転移の開始を宣言する二人。力の余波によって光の波長が乱れて、少し空間の見た目がブレている。外部から陽子、月子の姿も歪んで見えた。
「ほな、各々方、戦闘準備!」
「少しクラッときます。目を瞑ると少しだけ楽ですよ。周囲の警戒は私とタイガーさんでしますね」
過去に空間転移を経験した祥子が、そう皆にアドバイスを送る。その指示に従い、メンバーたちの多くが瞼を閉じる。
「それじゃあ、陽子はん、月子はん、お願いしますわ! いくで! みんな気張れや!」
「「「「「応!」」」」」
祥子と瞼を閉じた新地獄派遣メンバーたちが、タイガーの言葉にそう応えた。
第7話 出陣と、偵察と。 了 第8話 偵察と、遭遇と。 に続く。
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