二章5話

 グライラット本国がイーリスに占領される頃とほぼ同時刻。

進軍するグライラット軍、しかしその進軍速度は砦を出た当初とは明らかに遅くなっていた。度重なるイーリスの伏兵の襲撃が、グライラットを警戒させ、まともに届かない物資に明らかに兵は疲弊し、士気は下がっているのが眼に見えて分かった。

 その様子を離れた所から斥候の兵隊が見ている。

「もうそろそろ、頃合いかもしれんな……よし、時は来た、そうザイーツ閣下に報告してくれ。頼んだぞ」

 男は伝令にそれだけ伝え、再びグライラットの動向を探る。



 リーゼロッテは、降伏したグライラット帝国の事について今後の方針を決定するための会議を開いていた。そして、その会議中にザイーツに副官が歩み寄り何やら小声で話している。その言葉を黙って聞いているザイーツ。そして、最後に何やら小声で指示を出し、その指示を聞くと退出する副官。

 そして、副官が退室するのを見て、ザイーツは話始める。

「陛下。前線よりの情報です」

 ザイーツはそう会議に集まる全員に向けて話始める。

「こちらに進軍中のグライラット軍は確実にその勢力をそがれ、士気もかなり下がっております。補給も途絶えがちにながらもこちらに進軍を続けています。これ以上進ませると、イーリス国民に被害が及ぶ可能性もあります。グライラットの兵は今疲労の極みにいます。ここで打って出ましょう! 陛下、ご決断を!」

 ザイーツの言葉にリーゼロッテは少し考える。

「グライラット本国の占領はまだ完了してはいませんか?」

 ザイーツはそのリーゼロッテの言葉に返す。

「恐らく、予定通りならもうすでに完了しているはずです。しかし、まだ連絡は有りません。陛下、これ以上グライラットの進軍を許してしまうと撃退が難しくなります。どうか、ご決断を!」

 少しため息を吐きリーゼロッテは口を開く。

「解りました。グライラットを押し返しなさい。しかし、いつも言っていますが、無用な殺戮は許しません。それと、戦いが始まる前にグライラットに一度降伏勧告をしてください。ザイーツの作戦がうまくいっていれば、もう今頃グライラット本国にはイーリスの旗が立っているはずです。嘘でも構いません、それを話して降伏を促してください」

「陛下の御心のままに」

 ザイーツはそう言うと頭を下げる。

「それと、前にも言いましたが、此度の戦、私も戦場に立ちます。そのように取り計らいお願いいたします」

 リーゼロッテの言葉を聞いてルーベールは明らかに不満がありそうな顔で答える。

「陛下、失礼を承知で申し上げますが、陛下自ら戦場に立つことはお辞めになられた方がよろしいのでしょうか? もし陛下の身に何かございましたら、イーリスはどうなってしまうか解りません。どうかご再考願います」

 ルーベールの発言にリーゼロッテは毅然と答える。

「ルーベールの気持ちは解ります。しかし、イーリスを守る戦いに兵や民を死地に送り出して私が安全な所で過ごす訳には参りません。それでは兵の士気にかかわります」

 ルーベールはそれの言葉を聞いてもなお反論する。

「しかし、陛下は誰にも変わる事の出来な唯一お一人の方です、その陛下を死地に送り出す事など私には……」

 そこで言葉を遮る様にリーゼロッテは話し出す。

「ルーベール、それは違います。一人一人が総て変えなど利かない大事な存在です。それを忘れてはいけません」

「しかし……」

「ルーベール、これはもう決めた事です。ルーベールの心配も解りますが、私の考えは先ほど述べた通りです。他には何かありませんか?」

 これ以上の議論は必要ないとばかりにリーゼロッテは会話を打ち切る。

「なければそれぞれ準備に取り掛かってください。ザイーツ」

「はい」

「出撃準備が整うのにどれくらいの時間が掛かりますか?」

「準備は整っておりますゆえ、いつでも出れます。後は陛下のご命令を待つばかりにございます」

「解りました。では命じます。ザイーツ、グライラットを追い返しなさい」

「御意」

「では、参りましょう」

 リーゼロッテの言葉で会議は終わり、リーゼロッテは戦場へと赴く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルルドの国 流民 @ruminn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ