二章4話
「陛下! 皇帝陛下!」
深夜、グライラット皇帝、グリーズ三世の部屋に側近が駆け込む。
「何事か!」
気性の荒い皇帝グリーズは眠っていたところを起こされ、更に機嫌が悪くなり、威嚇するかのように大声を出した。
しかし、いつもならこれで静まり返るのだが、今日はそうもいかず、側近は大きな声で続けた。
「皇帝陛下、一大事にございます!」
「だから何事だと言っておろう!」
「イーリスが、イーリス軍が城内に侵入してございます!」
グリーズは側近の言葉に怒りが込み上げてくる。
「馬鹿な事を申すな! 奴らは後退をしていると言うではないか! それがこんな所におろうはずがないわ!」
それでも側近は言葉を繋ぐ。
「皇帝陛下! しかしながら、近衛もほぼ壊滅。恐らくここまで来るのも時間の問題と想われます! 早く、早くここよりお逃げください!」
側近の言葉にグリーズは外から聞こえる鉄と鉄がぶつかり合うような音が耳に入り出す。そして、まだ暗い窓から下を見る。だんだんと慣れだした眼に映るのは、ほとんど打ち取られたであろう動かず倒れ込む近衛の姿ばかり。そして、眼下に見える動く者達の姿は殆ど見覚えのない白銀の装備で身を固めた者達ばかり。
「まさか……こんなはずが……」
その眼に映る景色をただ茫然と眺めグリーズは言葉を失う。
「きさまら何者だ! ここを皇帝陛下の……」
側近が声を上げるが、その声が途中で途切れてしまう。ようやく我に返ったグリーズが振り向くとそこには良く見知った顔、そう彼自身の息子であるランソロートが立っている。
「おお、ランソロート! 来てくれたか! お前、下に言ってあの不届き者どもを……」
グリーズは突然の衝撃に言葉を失う。そして、自分の下腹部に眼をやる。そこには本来あるはずの無い人体の一部と言うにはあまりにも禍々しく、いや、実際にはそれは人体の一部ではなく明らかな金属の輝きを発し、その鈍く光る金属を伝うように、グリーズ自らの赤い液体を滴らせる。
「ランソロート? お前、何を……?」
突然の事にグリーズは理解が追い付かず、ランソロートに問う。そのグリーズの言葉にランソロートはいたって冷静に答える。
「もうあなたの時代は終わりました。本来なら御退位願う所ですが、どうも時代はもうあなたを必要とはしていないようです」
ランソロートはそう冷たく言い放つと、剣をグリーズの身体から引抜く。引抜かれた場所からは血がだらだらと垂れ流され、グリーズの生命を奪っていく。そしてまたランソロートはもう一度その身体を手にした剣で貫く。
「き、きさま!」
その言葉を言うのがやっとで、後は血を喉に詰まらせ話す事も出来なくなる。そして、グリーズは力なく倒れる。その眼は恨めしそうにランソロートを見つめる。
「そんな目をしなさんな、お父上。天上の世界で私の事を見守っておいてください。無能なあなたよりもこの国を大きくして見せますから」
ランソロートはそう言うと剣を一振りし、ついた血を払い鞘に納める。そして、振り返りすっかり怯え、身体を震わせている側近の男を見る。
「おい、お前」
ランソロートの言葉に脅えたように「は、はい……」と返事をする。
「今皇帝陛下は自害された。これ以上の抵抗は犠牲を増やすだけ。即刻停戦し、イーリスに降伏するよう、兵に通達せよ」
ランソロートがそう言うと、腰を抜かしながらも何度も頷き、這うように部屋を出る。そんな側近の男を見送り、今までグリーズが見下ろしていた窓から明けかけた空を見つめる。
「夜明けか……新しい時代の始まりか。さて、イーリス王リーゼロッテ、どんな時代にしてくれるのかな?」
そう一人呟くランソロート。その瞳と口元に微かな笑みを浮かべ、終結しつつある眼下の戦闘に少し眼をやり、また昇り始めた太陽を見つめる。
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