第19話 エピローグ

 帰って来た。

 扉の先は、見覚えのある洞窟だった。


「帰ってきたのよね?」


 侑里は心配気に、辺りを見回していた。


「外に出てみようぜ」


 零の提案で外に出ると、目の前には森が広がり、空は朝と夜が混同していた。四人は森の中を突きぬけて、登山の道に出た。

 そして、霊導山を降りると、そこにはたしかに自分たちの見覚えのある景色が広がっていた。


「よかったあ。もしかしたら、違う場所じゃないかって不安だったんだ」

「ああ、なんか帰って来たことを実感したら、腹が減ったなあ」


 零が腹を押さえていった。


「それじゃあ、僕の家に来る? 何か作るよ」

「おっ、それはいいね」

「みんなも一緒にどう?」


 湊人の提案に、侑里も乗ってきた。


「それじゃあ、お邪魔しようかな」

「私もいいですか?」


 レミも小さく手を挙げていった。


「うん。いいよ」


 湊人は、自分の家に向かう間、いつも見ていた景色を眺めていると、違和感を覚えた。 

 住宅地が、自分が記憶している以上に増えているような気がした。遠くに見えた市役所や遠くに見えるビル群は、オブリヴィオンを出かけたときよりも、修繕が進んでいた。

 よく見ると、剥がれていた道路のコンクリートも、標識さえも、元に戻っている。

 たった、一週間と少しで、ここまで工事が進むだろうか。

 湊人が疑問を抱いていると、侑里が声をかけてきた。


「ねえ、湊人……」


 侑里が眉根を寄せていった。


「気のせいだよ。オブリヴィオンで、一週間休息の時間があったとはいえ、疲れてるんだ」


 湊人は、三人を家に招くと、キッチンに向かった。


「適当にくつろいでいて」

「おい、湊人、ちゃんと掃除してるのかよ」


 零が茶化すようにいってきた。


「してるよ」


 そういった矢先だった。

 侑里の驚愕した声が聞こえた。


「どうしたの?」


 侑里は、背を向けたまま固まっていた。レミも零も、侑里を凝視したまま動けずにいるようだった。


「ゆ、侑里、どうしたの?」


 湊人が再度訊ねると、侑里は手にデジタル時計を持って、こちらを向いた。


「湊人、気のせいじゃなかった」

「え?」

「街の修繕が、異様に進み過ぎてると思っていたけど、あれは間違いじゃなかった。これを見て」


 湊人は、侑里に手渡されたデジタル時計に目を落とした。

 表示されていたのは、オブリヴォンから出発して半年ほど経過した日付だった。


「壊れてるんじゃねーのか?」


 零が顔を引き攣らせていった。


「だけど、零、さっき掃除してるのかって、湊人にいったでしょ?」

「いや、いったけれど、湊人が掃除してなかったとしたら、そんなの半年過ぎてる証拠にはならないだろ?」

「湊人、冷蔵庫は?」


 侑里に言われて、湊人は冷蔵庫を開けた。

 すると、牛乳の腐った匂いが鼻腔をついた。


「うわっ。だとしたら、こっちも」


 湊人は、食パンを入れていた籠を取り出すと、カビが生えていた。


「これでわかった。オブリヴィオンで過ごした時間と、私たちの世界の時間は、同一じゃない」


 侑里の言葉に、誰もが不安の色を隠せなかった。当初は、三年という期間に余裕があると思っていた。

 だが、この事実によって、湊人たちは急かされることになった。

 もしも、この先で、オリガ以上の強さを誇る者がいたとしたら。

 突きつけられた事実に、四人に流れる空気は、重くなっていった。

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玲条湊人~扉の先でキミに応える~ かみかわ @kamikawa

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