74話 ライネル王国戦場記録簿

 ライネル王国戦場記録簿二八巻より抜粋 著者:ミラ・ウェーンライト



「くっ」


 私はたった一人でもはや何機倒したのだろうか。

 目の前からはさらにワラワラとフルールが現れる。先ほど倒した機体と同じ見た目の機体がこうも出てくると、倒した機体が復活しているかのような錯覚すら覚える。

 さらに二体のフルールが接近してくるのでこちらが倒そうと踏み込むと、その二機は後ろに跳んで再び距離を開ける。

 何がしたいのかと思ってさらに踏み込むと、別の場所から弾丸が飛んできた。


「この程度で――」


 それらを全て躱し、弾き、後ろに跳んだ二機にむかって横なぎにニョイボウを叩きつける。


「まったく、ユーヤはこの程度の敵くらいは苦労しないのだろうな……」


 溜息をついて、油断なく辺りを見渡す。リーナの危機ならまだしも、私の危機だ。ユーヤの助けは期待しない方がいいだろう。


「……さすがはライアさんだ」


 こうも狙いがどんぴしゃりだとは。あの人が言った時間ちょうどにオルレアン王国のフルールは山を越えてきた。

 そしてここまでどんぴしゃりということは……私なら勝てると信じて私だけをここに向かわせたのだろう。


「早くこいつらを倒して態勢を立て直したいところだが」


 さらに前から来るフルールを突きで操縦席を貫き、さらに棒を引き戻す勢いで後ろから向かって来ていたフルールも弾き飛ばす。

 そして両端からやってきた機体を、円を描くようにニョイボウを回転させて弾き飛ばす。


『囲め! 相手はたった一機だ!』


 指揮官らしい機体から声が響く。その台詞は……よく聞く台詞だが、私にとっては意味が変わってくる。


「そんなこと誰でもわかってるんだ。あの時だって、私はそう思ってた」


 誰だってわかっている。自分たちよりも数が少ない相手が来たら大人数で囲む。そして囲んで袋叩きだ。

 数で囲んで棒で殴る。これは原初の時代から変わらない、人類のみならず生物の闘争における必勝法だ。


「だけど――だけど、それをみんな分かっているのに、出来ていないからそんなことを言ってしまうんだよな」


 何故出来ないのか、ということを考えずに、それさえできれば勝てると思ってしまう。


「情けないな、情けないよ本当に」


 一斉に突っ込んできた真っ白な純白の機体。何機かやられたとしても確実に私とゴクウをひき肉にする算段だろう。


「なんで勝てないか教えてやろうか」


 私はゴクウの内部にある蓋を開き、そこのボタンを押すと画面に『解除暗号を入力してください』と出た。私はそこに正しい数字を入力する。


『認証しました。制限を解放します。エンジンモードにしますか?』


 当然、『はい』だ。


『波状攻撃で攻め立てろ! 分厚い円を作って逃がさないようにじっくりと攻めるんだ! こっちは数で勝っている! 囲めば勝てるんだ!』


 一瞬動かなくなったゴクウを見て好機と見たか、敵機が一斉に突っ込んできた。

 それを――


「答えはな。そんな簡単なことすらさせてくれないほど実力差があるということだ!」


 ――ニョイボウで一掃する!


『なっ!』


「この姿ではそう長時間は戦えない。だからまずは三分だ!」


 ライアさんからの命令で、この形態を使っていいのは三分間までと言われている。理由は単純に「まだその時じゃない」かららしい。

 これは第一部隊――所謂奇襲部隊のようなものらしく、これの混乱に乗じて敵は亜人デミスマンをこちらの国に投入するのが目的なんだと言っていた。


「そしてこの辺に基盤を作るつもりだったんだろうが……当てが外れたな、オルレアン王国」


 不可視のニョイボウで周囲にいたフルールが一掃される。この程度の数ならユーヤはサムライモードなどにならずに全滅させられるのだろうが……生憎、私は気が短くてな。


「行くぞ!」


 周囲を囲っているフルールの一機に近づくと同時に、ニョイボウを伸ばして一気に貫く。さらにすれ違いざまに後ろから頭を破壊して一丁上がりだ。


「っと……はは、私にもユーヤの言い回しが移ったかな」


 あの男はリーナと相思相愛のくせしてどうも奥手で良くない。もっといちゃいちゃしていればいいものを、国王とその部下だからとか言って妙に一線を引いた態度をとる。

 そうかと思えばいきなり進展していたりするし、本当にもう……


「ま、私にはもう関係ないことか」


 リーナが幸せになるためにも、私は戦おう。

 迫りくるフルールをニョイボウの一撃で首を飛ばし、さらに下から振り上げたニョイボウで弾き飛ばした。


「はあああああああああ!!」


 最近は私室とレイニーさんのところでしかまともに声を出していない。自分のやったことだから後悔はないが、それでもこういうところでその鬱憤を発散でもさせてもらおう。拡声器は起動しているが問題ないだろう。

 後ろから剣が横なぎに振るわれ、前のフルールは縦に振り降ろしてくる。後ろから来る剣はニョイボウで防ぎ、前のフルールは機体を横にずらして剣を躱す。


「ユーヤに比べれば蠅が止まるほどの速度だ」


 そして蹴りで前のフルールを飛ばし、後ろの機体をニョイボウで殴り砕く。

 さらに――ニョイボウを伸ばして周囲のフルールを弾きとばす。ニョイボウはいい武器だが、殺傷能力が低いのだけは難点だ。もっとも、機兵戦では相手の機体はそのまま自分たちの武器になるので壊さない方が都合がいいという面はあるんだが。

 見る見るうちにフルールの数が減っていく。そして……そろそろ、三分か。


「やれやれ、本当に……」


 私は一度エンジンモードを解除しようと、機体の動きを止めた刹那……ドン! と体当たりを受けてしまった。

 しまった、と思う間もなく、私は地面に引き倒される。見れば、今自分に体当たりをしてきたのは先ほど私が頭部を破壊した機体だった。


(しまった――頭部を破壊したら視界が奪われるだけで動けなくなるわけじゃないというのに!)


 後悔先に立たず、私は急いで立ち上がろうとしたところで指が滑り操作を間違えてしまった。


「くっ!」


 焦りはさらに誤動作を誘発する。今度は完全に囲まれてしまっている。これほどの近距離に近づかれてはニョイボウを振るえない。


「舐めるな……っ!」


 だが、だからといって機体の性能差を埋められるわけじゃない。私が目の前にいたフルールを殴り飛ばそうとしたところで――


 メキョッ!


 ――と愉快な音とともに吹っ飛んでいった。フルールが。私はまだ殴っていないというのに。


「何が……」


 驚いて数瞬呆けていると、そこで拡声器から声が聞こえてきた。


『私がライネル王国騎兵部隊隊長にしてライネル王国の盾、ギルバート・ザービルである! さあ、我が剣の錆になりたいものからかかってくるのである!』


(ギルバート……ッ! 来てくれたのか!)


 ギルバートがきた以上、私は喋るわけにいかない。慌てて拡声器を切ると、ギルバートの機兵から声が聞こえてきた。


『ミラ殿。其方がどういった理由で喋ることが出来ないと周囲に言っているのか私は分からないのである。しかし今は戦場である……今だけは、意思の疎通のために声を出してはいただけないだろうか』


 どうも、私が全力で叫んでいたのを聞いていたらしい。もっと慎重にすべきだったな。

 そもそも、私の正体は『知らないふり』だからな。あからさまに名乗らなければユーヤやライアさんも許してくれるだろう。

 もう一度拡声器をつけると――ゴクウの拡声器には変声機能があるから――私は敵機を見据えながら礼を言う。


『……ありがとう、ギルバート。助かった』


『うむ! ……では、少し休んでいて欲しいのである。ライア殿の指示で暴れてこいというのであるからな』


 ガシャン、と……何やら大きな盾を構えたライトフットがゴクウの前に出る。


『ここは私とライトフットヴァイオレットカスタム/ギルバートモデルが相手をするのである!』


 巨大な盾を持っていることに目を奪われていたが、よくよくそのライトフットを見るとところどころ普通の機体とは違っていた。装甲が他の機体よりも少し分厚く、さらに剣も太くなっている。ムサシに似た形状だったライトフットだが、なんというかずんぐりむっくりしている。銘なのか、腕の部分に『ヴァイオレット』と書いてある。

 普通のライトフットとは違い、全身が紫色になっている。綺麗な紫色だ。


『ゆくぞ!』


 ヴァイオレットが突っ込んでいく。敵機のフルールがそれを迎え撃とうと剣を振り上げた瞬間、ヴァイオレットが間合いを詰めると同時に盾を敵機にぶつけた。盾攻撃とは渋いな。

 だがそれは致命傷になりえない――そう思った瞬間、敵機が沈黙した。


『『『なっ!?』』』


 どこも壊れた様子が無いのに、動かなくなってしまったのだ。無論罠の可能性も無いわけではないが……。

 さらにヴァイオレットは手近なフルールを剣で横薙ぎに斬り裂く。その一撃で確実に行動不能にするギルバートはさすがと言うほかない。

 ……これは、私もジッとはしていられないな。


『私も行くぞ!』


 ゴクウを一気に加速させ、ヴァイオレットの後ろから剣を振り下ろそうとしてきたフルールの頭を砕く。これだけじゃ反撃される恐れがあるので、膝の関節も砕いておく。

 ガクリとバランスを崩すフルールを見て、最初からこうしておけばよかった。


『やるであるな!』


 ギルバートの興奮した声が聞こえてくる。私はギルバートが沈黙させた機体も足を砕いておく。どんな原理でこうしたのかは分からないが、今は『そういうもの』と思っておこう。

 さらにヴァイオレットは一体も後ろに漏らすことなく盾突撃で無力化していく。ゴクウの攻撃だと多人数を蹴散らすのにはいいがああして確実に無力化することは出来ない。

 だが逆に、ヴァイオレットは対多人数戦闘を苦手としているようだ。そこの欠点を私がゴクウで補えばいいだろう。

 ニョイボウを操り、ヴァイオレットの背後に回ろうとしていたフルールを弾き飛ばす。先ほどよりもさらに周りを取り囲もうとしているからヴァイオレットとゴクウは背中合わせになって自らの武器を構える。


『……足を引っ張るなよ?』


『ふっ、誰に言っているのである。私は我が国でユーヤ殿の次に強い操縦者である! 私にかかればこの程度――ぬんっ!』


 盾での攻撃によってフルールを同時に二体行動不能にしたヴァイオレット。……二体がちょうど直線状に来るように動いていたわけか。

 剣での横薙ぎを躱し、ニョイボウで喉元を突いて動きを止めた後膝を破壊して動きを封じる。


『さあ、行くぞ――』


 この場所は私たちが優位をとる!

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リレヴォリューション~戦場を駆ける蒼き機神~ 逢神天景 @wanpanman

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