73話 開戦!

 使者がやってきたとの報で、俺とライアとスーが迎えに出る。以前はいきなり暗殺してくる人間を使者として送り込んできた国が相手だからな。取りあえず出せる戦力はそれなりに投入しておかねば。


「スー、ちゃんとI2E武装ウェポンを持ってきたか?」


「肌身離してないでござるよ。これが無いとさすがに亜人デミスマンを倒せないでござるからな」


 俺もちゃんと懐に忍ばせている。ここ最近は射撃もさることながら『抜き撃ち』の腕前を磨いている。目指すは抜き打ち0.15秒だ。よく考えなくてもこうして銃で戦うような生活をしていると、の〇太の早撃ち0.1秒は人間技じゃないと思う。


「ミラを見なかったけど」


「特命らしいでござるよ」


「……え、俺以外にあいつに命令出せるの一人しかいないんだけど。ライア何やってんだよ」


 なんてことを言いながら応接間にむかうと、既にライアが部屋の前で待機していた。

 いつも通りスーツを着て本心の分かりづらい笑みを浮かべている。

 それに近づいていき、俺はいきなりガッと肩を組んだ。


「……どうされましたか?」


「おい、ミラに特命って、何してるんだライア。あいつがいねぇと城の防衛が手薄になるだろ」


「既に戦時中だと思い、命令をくださせていただきました。まあ、後でご報告いたします」


 こいつが持つ護国の意識は俺なんかよりも全然高いし、戦況も見れている。こいつがそんなことをしたってことは何らかの意味があるんだろうが……まあ、いいか。

 信用しないと話が始まらない。

 そんな風に心の中で納得してから、俺は二人を連れて部屋をノックした。


「失礼する」


 俺が使者のいる部屋の中に入ると、そこには普通の礼服を着た男が座って待っていた。こちらの出したお茶も飲んでいるようだし、俺らへの殺意も感じられない。

 スーが右に、ライアが左に立って俺はその真ん中で座った。


「私はアンジェリーナ国王陛下の側近である、ユーヤ・ナイト・エディムスだ」


 俺が自己紹介をして頭をさげると、向こうもこちらの眼をまっすぐ見返して挨拶をし返してくれた。


「お初お目にかかります。私はオルレアン王国からやってまいりましたターメルと申します。今回は我が国より書状を持ってまいりました」


「かたじけない」


 普通の挨拶を交わした後、ターメルから書状を受け取る。


「見てもよろしいですか?」


「そのために持ってきたものですから」


「では失礼して」


 俺がそれを開けると、流麗な文字で長ったらしくいろいろな文章が書かれていた。

 それを要約すると……。


『お前の国は俺たちの要求を突っぱねた。最後通告だ、さっさと金をよこさねえと攻め滅ぼすぞ(意訳)』


 ってことか。


「この金額は一国が払えるものではないですからね。明らかに滅ぼす気満々でしょう」


 俺が問うと、ターメルはフッと笑ってから頭をさげた。


「そんなことはございません。あなた方が拉致した私の国の民は実はとある研究成果を持っていましてね。それを傷つけたことに対する損害賠償となっております」


「なるほど。ただ、どの道我々は払うことはできません。また、一銭も払う気はありませんのでご了承ください」


 俺も笑顔で対応すると、ターメルはさらに笑顔を深めた。

 ああ、それ見たことあるぜ、俺。

 たっくさんいたよその顔をしたことある奴らは。


(自分たちが確実に優位にいると確信してる奴だ。勘違いしてることにも気づかずな)


 少なくとも、そんなに簡単にやれるほど柔な国じゃないぜライネル王国は。


「では、こちらも相応の態度をとらせていただきます」


「それは……機兵同士の戦いを意味するということでよろしいですね?」


 確認をとると、ターメルはにっこりと笑って「ええ」と頷いた。


「宣戦布告と受け取っていただいて結構です」


 そーかい。

 こちらもあらかじめ用意しておいた書状があるので、それをターメルに渡す。勿論、内容は「喧嘩売るなら買ってやるよ」というものだ。ちゃんとリーナが書いているから言葉は綺麗なものが使われている。

 それを受け取ったターメルに俺は渾身の営業スマイルを向ける。


「何もない国ですが、ゆっくりしていってください。これは私たちの回答です。ノーセン国王にお渡しください」


「承りました」


 そしてお互いににっこりと笑顔を交わす。ああもう、こういう腹芸はライアにやらせるべきなんだ。別に何も腹芸はしてないけどな?


「では、失礼いたします」


「ええ。――お客人がお帰りだ。扉まで連れていってやれ」


 俺は戸の外にいた兵士の一人に声をかけると、向こうから「はっ!」という声が聞こえた。

 最後にターメルが俺にもう一度礼をしてきたので俺も会釈を返して……扉が閉まった。


「えらくストレート……直接的だったな」


「そうでござるな。これなら三人もいらなかったでござるよ」


「ですが、これでこちらもやっと準備が出来ます。取りあえず、当初の予定の防衛ラインに今夜中に第二世代機兵を配備しておきましょう。ギルさんを筆頭としたライトフットの部隊で。シンガイシンは王都の防衛に回しましょう」


 早速ライアが迎撃の話をしている。

 ライネル王国は山に囲まれた国なので、四方向ある砦のうち、オルレアン王国から侵入出来るのは西方の砦のみだそうな。

 他に行くとなると物凄い量の物資と時間が必要になってくるんだとか。


「もっとも、オルレアン王国が国同士の決まり事を守るなら、ですがね。――失礼します」


 ライアが出て行き様にぼそりと呟いたライアの言葉は……俺に凄まじい嫌な予感を残すのには十分なものだった。

 が、まあ――


「あいつのことだ、どうにかしてんだろ」


「そうでござるな」


 ――そしてその言葉の意味は数時間後すぐにわかることになる。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 出陣したギルにはスマホを持たせている。だからこれでいつでも本陣であるここと連絡が取れるのだが……。


「まさかそれをいきなり使う羽目になるとは思わなかったぞクソが!」


「言葉遣いが悪いですよ、ユーヤ」


 リーナが俺を窘めるけど、俺はイライラが止まらない。


「戦況がどうなってるか分からないからな……というか、まさかリグルの野郎が機兵にカメラを搭載してたとは。あいつ、物凄いことが出来るな」


 リグルはある程度の機兵にカメラを取り付けており、それらが俺のスマホに送られてくるように改造していたらしい。

 I2E鉱石ってもはやなんでもありになっているような気がするが、映像を撮る技術は既にあったらしく、さらに今回の件で送信、受信の概念を理解することでどうのこうの……。要するに、今までよりもさらに簡単に映像の送受信ができるようになったんだそうだ。


「こっちからも送れたらいいんだがな」


「そう簡単にはいきませんよ。リグルだって魔法使いじゃないんですから」


「そりゃーなー……持ちこたえてくれよ、ミラ」


 俺は映像を見ながら、各方面に指示を飛ばしている。疎開の時期が早まったり、送るための食料の調達など様々な事態が一度に引き起こされているからだ。


「これで……亜人デミスマンでも来やがったらさらにてんてこ舞いになっちまうな。つーか戦闘員を何人動員できる?」


 ライアに問うと、ライアは書類を部下に渡しながら簡潔に答えた。


「そうですね……既にスーさんは配備済み、ミラさんは出撃済み、機兵で戦わせるわけにはいきませんし……もうここにいる三人と、リグルくらいですか」


「一般兵は何をして……ああ、城の防衛と疎開の護衛、誘導か……ッ! って、お前もナチュラルに国王を戦闘員にいれてるんじゃねえよ!? あと、俺も本職はパイロットだからな!?」


 書類を書きながら叫ぶと、リーナが


「何を言っているんですか、ユーヤ! 民が戦っている時に王族が背を向けるわけにはいきません!」


「そうかもしんねぇけどそうじゃねえよ! 王の戦いって物理じゃねえから! もっと他にいろいろあっから!」


 国王の戦い(物理)ってお前は剣豪将軍こと足利義輝かよ。いやあの人は将軍であって王じゃねえけどこの際似たようなもんだ。

 ……でもムサシに乗る以上前線には出さざるをえないんだよなぁ。


「それはそうと、ユーヤさん。ナチュラルとはどういう意味ですか? また異世界の言葉ですか?」


「いや今そこは食いつくところじゃねえからな?」


 ライアにテキトーに返しながら、予算が書かれた紙を外にいる部下に回す。さて、次はどの案件だったか。

 そんなことを思いながら画面を見ると……そこでは、ミラが奮戦していた。


「あいつら……まさかあの山から入ってくるとはな」


 どうも、オルレアン王国の連中は。それも、俺たちが予想していたところとは全然違うところから。


「にしても、第一世代機兵がいなかったことが救いだな」


 山の中腹から機兵どもを下らせて、何にも関係ない農村を襲うように進軍してきやがったのだ、オルレアン王国の連中は。

 しかし、それを読んでいたライアは既にそこにミラを配置していた。それも、

 画面の向こうではゴクウがニョイボウで向こうの第二世代機兵――フルールと戦っている。数の上じゃ圧倒されているが、それでもゴクウは互角以上にわたり合っている。

 あの時からずっとミラは俺と特訓してきた。ギルほどじゃないが、この国では俺、ギルの次に操縦は上手い。並みの操縦士なんか比べ物にならない程のレベルで。

 前方から来る二機のフルールのうち、一体の剣を躱し、さらに反転する勢いを利用してニョイボウの一撃を叩きこむ。

 倒れたところをすかさず踏みつけ、メインカメラを破壊。こうして無力化したフルールは既に二桁にも上っている。


「……だいぶ強くなったな、ミラは」


「でもさすがに数が多いですよ……ユーヤ、大丈夫でしょうか」


「大丈夫ですよ」


 俺とリーナが画面を見ながら会話していると、ライアが穏やかな声で言った。


「既にギルさんはむかっています。機兵の速度ならばそう遠くはありません。それに、彼女にはエンジンモードを三分間までは使用してもいいと言ってありますから。それにしても、ユーヤさん。あなたは文官ではないのですから、じっくり戦闘を見てフルールの機体の性能を見ておいてください」


「分かった」


 仕事がひと段落したタイミングで俺は画面をしっかり見ることにする。

 フルールは画面に見える限りでは30体……いや、もっといるようだ。そして倒れたフルールの数は既に10体。

 周囲に接近してくるフルールを、ニョイボウを構えたゴクウが迎え撃つ。

 向こうの音声が聞こえてこないのは悲しいが、まあ仕方がない。というかこれメインカメラに付けられてるんだろうか、ゴクウの全体像が映らない。


「ギルは間に合うだろうか……」


 ゴクウのニョイボウが突っ込んできたフルールの剣を弾き、メインカメラに突きを食らわせる。そこでいきなり視界が反転したかと思うと、既に剣を振りかぶった状態のフルールが。後ろから襲われたらしいが、それすらニョイボウで斜めに弾き、相手の体勢が崩れたところに下から打ち付けて倒した。


「にしても数が減らねぇな……」


「向こうはそれが売りの国ですからね」


 俺の呟きにライアが反応する。そりゃそうなんだが……いくら第一世代機兵が異様な戦闘力を保持するとはいえ、この数はマズいだろう。

 エンジンモードをこんな序盤で使う羽目にならないといいが……。

 ああもう……死ぬなよ、ミラ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます