第3話 星に願いを

 そんな幼いイルカの淋しさを感じて、すっかり仲良くなった仲間のイルカ達が話しかけてくれるようになっていました。


「ほら、夜空を見上げてみろよ。見上げているとたまに流れ星が流れるんだ。流れ星に願い事をすれば願いが叶うって言うぜ」


「本当!? じゃあ僕、流れ星を探すよ!」


 この話を聞いた彼は、嬉しくなって夜の間中流れ星を探し続けました。

 とは言え、そう簡単に見つかるものではありません。幼いイルカはすっかり寝不足になってしまいました。


「まあ、気長に探すんだな! そう簡単に願いは叶わないって事だよ!」


 先輩イルカは、そう言って彼を励ますのでした。


 時は流れ、迷子イルカが施設に保護されて一ヶ月が経とうとしていました。彼もすっかりこの生活に慣れて、このまま一生をここで過ごしてもいいかなと考える程になっていました。

 その日も楽しくお客さんと触れ合って、気分よく過ごします。ただ、この日に限っては、何となく不思議な予感も感じていたのです。


「今日はきっと何かあるぞ!」


 しかし、彼のその予感は当たらないまま――とっぷりと夜になってしまいます。

 この頃になると、もうすっかり流れ星を探すのはあきらめていたのですが、ただ何となく夜空を見る癖はついていました。

 何も考えずに澄み切った夜空を見ていると、心にすうっと気持ちのいい風が吹くようでした。


 この日も日課の夜空を眺めながら、ゆっくり心を休めていたその時です。


 キラッ! と光る光の筋が突然幼いイルカの目に飛び込んできました。そう、流れ星です。彼はついに流れ星を目にする事が出来ました。

 余りに突然の事だったのでかなり慌てながら、彼はこのチャンスを逃すまいと、無我夢中で家族に会いたいと流れ星に願います。


「これで願いが叶ったらいいな……」


 幼いイルカはそう思いながら、その日は眠りにつきました。ようやく流れ星に願いを届けられて、久しぶりにぐっすり熟睡する事が出来たのです。


 その次の日の朝、施設の近くで大勢のイルカが泳いでいるところが発見されました。何と、そのイルカ達はあの幼いイルカの家族だったのです。はぐれた末っ子イルカが心配でずっと探していて、ついにこの場所に辿り着いたのです。

 それはまるで、昨夜の流れ星が願いを聞き届けてくれたかのようでした。


 家族が近くにいる事が分かると、施設の他のイルカ達が協力してくれました。


「早く! 家族に会いに行きなよ!」

「さようなら! 大海原でも元気でね!」

「君が来てくれた一ヶ月、結構楽しかったよ!」


 仲間達はそれぞれ幼いイルカに声をかけてくれました。施設の柵は、脱出しようと思えば結構簡単にそれが出来る作りになっています。それは、イルカと人間との信頼の証でもありました。


 幼いイルカは仲間達の協力を得て、とびっきりのジャンプをします。それだけで、あっさりと柵を越える事が出来たのでした。

 こうして迷子の幼いイルカは、ようやく愛する家族のもとに帰る事が出来ました。その様子を、飼育員さんはやさしく見守っているのでした。


 戻った末っ子イルカは、この一ヶ月の出来事を興奮気味に家族のみんなに話します。家族イルカ達はお礼をするようにしばらく施設の周りを回遊して、そしてまた本来の自分達の泳ぐ海域へと帰っていったのでした。



(おしまい)

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迷子のイルカ にゃべ♪ @nyabech2016

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