第2話 イルカ、助けられる
「あ、イルカさんがいる! 流されているみたい!」
その時、偶然浜辺を歩いていた子供が海を漂うイルカに気付きました。あまりにも弱っている彼の姿を見て心配になったその子は、周りの人達にこの弱ったイルカの事を話します。
やがて、イルカの飼育員の人が連絡を受けて迷いイルカを助けに来ました。
「あ……あれ?」
衰弱したイルカが気がつくと、そこはイルカの専用の施設の中でした。
「ぼ、僕……捕まっちゃったの?」
周りを見渡すと、海では見た事もないものばかりに囲まれています。少し前のサメの言葉が強烈に印象に残っていたイルカは、このまま殺されちゃうんじゃないかとさえ思ってしまうのでした。
「おお、目が覚めたね。ごはんは食べられるかな?」
意識が戻ったのを確認した飼育員さんが、イルカにごはんを持ってきました。彼は訳も分からず、そのごはんを口に入れます。
「うわ! 美味しい! あれ? 僕、助かったの?」
海で泳いでいた時に食べるご飯とは少し違っていましたが、このご飯もまたとても美味しいものでした。優しくされたのもあって、人間の印象も変わってきます。
「人間って怖い存在じゃないんだ!」
こうしてごはんをたくさん食べて、イルカは徐々に回復していきました。しばらくすると、すっかり彼は元気になっていたのでした。
元気になったイルカは狭い水槽から少し広めの場所に移されます。浜辺から少し離れたいけすのようなその場所には、自分と同じイルカがたくさん泳いでいました。
「今日からここで泳ぐといいよ」
飼育員さんはそう言うと、その場を離れていきます。初めての知らないイルカ達との交流に、幼いイルカは戸惑ってしまいました。
何となく場に馴染めずに遠巻きに泳いでいると、その中のベテランイルカの1人が彼に近付いてきます。
「よう! お前、海で死にかけてたんだって? ここはいいところだよ! ヨロシクな!」
「あ……うん。よ、よろしく……」
幼いイルカは戸惑いながら返事を返しました。
でも、このベテランイルカもいつかのサメと同じく陽気だったので、すぐに打ち解けあえる気がするのでした。
「ここでは自由に好きに過ごしていいんだ! どうだい楽園だろう?」
「そ、そうなんだ……」
広い海を知っている彼にとって、この場所は狭すぎます。
けれど、それを言い出せる雰囲気ではありませんでした。陽気なベテランイルカの雰囲気に、幼いイルカも少しずつ打ち解けていきました。
この施設にいるイルカはみんな最初から人に育てられたイルカで、いけすの外の広い海を知りません。広い海の事を話す幼いイルカの話を、他のイルカ達は羨ましそうに耳を傾けるのでした。
そうそう、このイルカ達がいる場所は水族館じゃありません。イルカと人が触れ合う事が目的の施設です。
なので、そこにはイルカしかいませんでした。
最初こそ先輩イルカ達の様子をうかがう幼いイルカでしたが、みんなただ自由に泳いでいるだけだと分かってきました。なので、彼も気を楽にして段々自然にお客さんと触れ合えるようになっていきました。
初めての体験が楽しい内はそれに夢中になって、家族とはぐれた淋しさを忘れる事が出来たのです。
しかし、段々この施設での過ごし方に慣れてくると、徐々にその感情も蘇ってきます。幼いイルカはすっかりホームシックになってしまいました。
考えてみれば、離れた家族も更にバラバラになってしまっているのかも知れません。もしかしたらもう二度と家族に会えないのかも知れません。
そんな事を考えると、彼はとても悲しくなってしまうのでした。
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