迷子のイルカ

にゃべ♪

第1話 イルカ、迷いこむ

 あるところに大海原を泳ぐイルカの家族の群れがありました。家族はみんな仲良しで、どこに行くのも一緒です。

 その中の一番の末っ子イルカは、いつも家族一緒なのをたまに窮屈に感じていました。なので、一人で自由気ままに泳ぐ一人旅に憧れていました。


 そんなある日、イルカの群れは大きな嵐に巻き込まれてしまいます。この嵐のせいで、末っ子イルカは家族からはぐれて知らない海に迷い込んでしまいました。


 一人ぼっちになってしまった末っ子イルカは、それでも初めての一人の冒険が楽しくて、ついついこの冒険を楽しんでしまいます。

 思う存分に泳いだ後で気がつくと、そこは誰も知り合いのいない知らない海域。流石の彼も段々不安になってきてしまいます。


 そこでやっと家族の元へ戻ろうと決意するのですが、元々知らない海域なだけに、どこをどう泳いでいいのやらさっぱり見当がつきません。

 しばらく当てずっぽうに泳いではみたのですが、すっかり迷ってしまい、困り果ててしまいます。


 そんな迷い子イルカがしょんぼりしながら泳いでいると、そこに近付くひとつの影がありました。

 それは、今の彼と同じく1人で泳いでいるサメでした。


「ようよう、どうしたんだいそんなところで?」


 サメは陽気にイルカに話しかけてきました。彼もあんまり寂しかったので、そのサメのもとに駆け寄ります。


「あのね、いつの間にか家族とはぐれて1人になっちゃったんだ。それで、帰りたいけど帰れなくて……」


 イルカの話を聞いたサメは、うんうんとうなずくと彼に話しかけました。


「そいつは大変だ! 実は俺もそうなんだよ! どうだい、良かったら一緒にここから脱け出さないか?」


 このサメの提案に幼いイルカは喜びます。一人ぼっちで淋しかったところに心強い仲間が出来たのです。嬉しくない訳がありません。

 彼は興奮して何度もジャンプしながら、このサメの提案に乗る事にしました。


「サメさんも1人なの? はぐれちゃったの?」


「おうよ! 全くこの間の嵐はひどかったなぁ!」


 サメの話によると、ここは瀬戸内海と言って海流がとても激しくて、一度入り込むと中々脱出の難しい場所なのだとか。彼がここに迷いこむのも実は今回で三度目で、だからこそ脱出方法も自分についてくれば問題ないとサメは胸を張って言うのです。

 このサメに出会ってラッキーだったなあと、イルカは思いました。


 そうして、サメに先導されてイルカがこの海域を出ようとしていたところ、運悪く2人は船に見つかってしまいます。

 人間の事をよく知らないイルカは何も感じなかったのですが、この船を見つけたサメの焦りようは半端ではありません。


「ッベェ! ヤツらに見つかったら捕まっちまう! イルカ! 急ぐぞ!」


 サメの話によると、仲間があの船に何人も捕まったと言うではありませんか。その話をするサメは、何だかとても青ざめた顔をしています。


「捕まった後の事は分からないけど、きっとヤツらに殺されたんだ!」


「それはヤバイね! 何としても逃げきらなくちゃ!」


 2人は持てる全ての力を出し切って船から逃げました。

 しかし、船はサメに気付いて全速力で迫って来ます。このままでは捕まってしまうと思ったサメは、自分を慕ってくれている幼いイルカに告げました。


「ここからは二手に別れよう! じゃあな!」


 そう言って、サメはイルカから離れていきます。また一人ぼっちに逆戻りしたイルカはと言うと、さっきの話がただ怖くて、もう無我夢中で何がなんだか分からなくなってしまっていました。

 なので、とにかく力の続く限り一生懸命に泳ぎ続けます。


 そうして気が付くと、またイルカは広い海に取り残されてしまっていました。しかも、限界まで泳いだせいでお腹はペコペコ……もう体力の限界です。

 それはもう、このまま浜辺に打ち上げられても仕方がないほどでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る