【完結読了】これを自分が思いつけなかったことが悔しい【★★★】

【読了後】
 5・7・5の俳句(俳諧)を題材とし、芭蕉門下の俳諧師たちの言霊を宿した少年少女たちの、超常バトルと青春物語を同時に味わえる良作。
 実に大きなエネルギーと可能性を秘めた物語で、俳句を趣味とする身としてはたいへんに面白く、楽しく読めた。三冊分にもなろうかという長い物語だが、一読するだけの価値はある。
(しかしながら、多少の俳句に関する知識が前提となっているきらいもないではない)

 いわゆる「超常能力バトルもの」とカテゴライズされるだろうが、バトル要素は控えめで、むしろ登場人物たちの青春譚としての魅力が際立つ。「野武士の彼女」のキャラ立てなど秀逸で、物語冒頭の、主人公との邂逅の場面などを、彼女の側から見てみたいと思った。そうした願望を抱かせるほどに、作者は魅力的なキャラ作りに成功している。
 そうした作者の手腕は、全編における登場人物の描き分け、キャラ立てにおいても見事に発揮されている。言霊の“宿り手”となった人物たちに加え、言霊の俳諧師、季節の女神といった面々まで含めれば、登場する主要な人物(人格)は20近くにもなる。これを普通に小説として描いてしまっては、読者も、作者ですらも混乱を来すだろう。だが本作においてその混乱はない。なぜなら作者は、ある特殊な手法を用いて、“宿り手”と“言霊”をほぼ混乱なく読者に提示することに成功しているからだ。作者の実力の高度なことは、その手法を実践してのけたことで窺い知れる。
(この手法について触れることもある意味では弱いネタバレになるので、レビューの最後の最後で触れることにする。自分でそれを見極めたいと願う未読者はそこまで読まれないことを)
 

 編集者的な存在から適切なアドバイスを受けてブラッシュアップすることが出来れば、商業出版物になっていてもおかしくないだけの可能性を秘めていると思えた。逆に言えば、そうしたブラッシュの余地、改善できる箇所がまだ残されている、ということでもある。いつか、改作され穴をなくし、更に魅力を増した今作をもう一度読んでみたいと、切に願っている。




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【読了前に書き付けた最初のレビュー】
※)まだ数章のみしか読んでいない段階ですが
俳句をいちおうの趣味とし、小説を書く身で、このアイデアが結びつかなかったことに、今、歯噛みしています。






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【作中の特殊な手法について】
 読了さえしたら、多くの人がピンとは来ているだろうと思う。
 本作では、言霊以外の登場人物たちの、「実名」がまったく登場しないのである。宿り手となった彼らは、宿った言霊の名を由来とするあだ名のみで呼ばれる。一人称パートのみならず三人称パートでも。
 これにより、宿り手と言霊の関係性がはっきりし、「この人に宿る言霊は誰だっけ?」と迷うことがない。見かけ上、言霊と宿り手を同一視して読むことが出来るのである。思いついてもなかなか実行できるものではない。

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