腹を見せて


 三つのランプでお互いの顔がはっきり見えるようになった。


 ジョンは大体四十半ばぐらいの歳で、ガリガリに痩せ、よく日に焼けている男だ。

 ランプを持っていた三人はおおよそ、二十代後半、三十代、五十代前半位であった。そしてやっぱり痩せている。

 ジョンだけではない、他の男も先程の女衆も皆痩せていた。オマケに着ているものも貧相なもので、体には土汚れがこびりついている。

 まるでゴボウのようである。


「さて……ほお」

 ジョンは私の顔を覗き込む。

 顔を合わせたくない私は背けるも、それをよしとしないジョンは、腕を伸ばして私の顎をつみ無理矢理元に戻した。そして視線が絡み合った。

「近くで見れば見るほど、本当にいい女だな、あんた」


 ――貴方は見窄らしいわね。

 とは言えず、睨んで答えた。

 そうしないと、私の立場が不自然になるからだ。今だけ、男衆に優位な立場を味合わせないと…―油断させておかないと。


「ふん、気だけは強いな。誰かナイフ持ってないか?」

 ジョンの呼びかけに、ランプを持っていた五十代の男が「これを使え」と、短剣を差し出した。

 その短剣に見覚えがあった。

 近衛師団に入る時、王家から頂く短剣だ。

 柄に細かな彫物がされ、鍔の部分は精巧な飾りに、キラキラ光る小さな宝石が散りばめられている。そして真ん中に王家の紋章が刻まれているはず――なのにそれがなかった。


 宝石は全部取られ輝きが失われ、王家の紋章は潰されていた。

 頭にカッと血が沸く。


「おう、これは駄犬隊が使っていた短剣だな。良いもの持ってんな」

「拾ったんだ」と短剣の持ち主は、黄色い歯を見せて笑った。


 違う、拾ったんじゃない。直感で分かった。

 王家から頂いた代物を、其処らに落とす馬鹿はいない。私は長年そこに所属していたから分かる。

――この男、盗んだな!

 あの場所で捕らえられた時、持っていたものは全てとり上げられた。お金も装飾品も剣も、さらには家、仲間、祖国、地位、王家。そして近衛隊の一介としてのプライドも――。

 守るもの全てを奪われた。


 この男、その時ドサクサに紛れて誰かから盗ったのであろう。

 私の物である可能性は低いかもしれないけれど、そのままあの男の手の内にあるのも癪である。

 怒りと屈辱に自然と体が震える。


「おい、こいつ震えてるぞ」

「俺らが恐いんだろ」

 盛大な勘違いである。


 ジョンは短剣を受け取ると、代わりに自分が持っていた鍬を渡した。


「どれ、切れ味は……」

 彼は私の隊服の襟に左手をかけ、短剣を持っていた右手を上に掲げると、一気に下へ下ろした。


 その瞬間、森の冷気が私の身体をヒヤリと触った。ランプの灯火が白い肌をオレンジ色に染め、彼らの目を扇情に誘う。

 先程走っていたため、息が未だ整っておらず、胸が上下に揺れている。その二つの丘の下には影ができ、チラチラ揺れる明暗が余計に艶かしさを立てていた。


 慌てて隠そうと腕を動かすも、後ろ二人にガッチリ組み付かれているので、無駄な抵抗に終わった。その時、余計に胸も揺らめいた。


「はっ、最高だな」

 私は羞恥と怒りと屈辱が混ざった感情に、頭が一杯になった。

 必死に理性を保とうと、目の前の男、ジョンを見据える。





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