バッドエンド エピソードNo.486213756841569

エピローグ

 キキキキッ……と、車が急ブレーキをかけた。


 横断歩道の上で、るる子がへたり込んでいた。


 車がぶつからないように、すでに時間の流れは遅くしてある。

 ここまでは前回と同じだ。


 しかし、不安はまるでない。

 なにしろ以前の記憶を持ったままなのだ。


 この先、何が起きるか知っている。

 なんかもうそれだけで自信というか、優越感すごい。


 二回目ともなれば楽勝。

 まずは、るる子に触れないようにして助ければいい。

 おかしな手段を使わずに、彼女だけ時間の流れを元に戻せば、それで済む。


 さっそくその通りにしてみたのだが、るる子はまるで動かない。


「何してるんだよ、る……」


 声をかけようとしたら、真横で落雷の火花が散った。


 シュウシュウと煙を立ちのぼらせるアスファルト。

 そこに、一人の少女が立っていた。


「久垣守、おまえをタイホするのよさ!!」

「誰……?」


 頭からアンテナ生やした、銀色コスチュームの幼女が俺の名を呼んだ。


「私は時空管理局のパトロール隊員だわさ。久垣守、おまえを共有歴史認識改変ならびに、特定時間軸内事象変動の罪でタイホなのよさ!」

「すまん。今、取り込み中だから。あとにしてくれないか」

「現行犯なのよさーっ!!」


 両腕をブンブン振り回しながらつっこんできたので、頭を手で押さえた。

 背丈が違いすぎるため、彼女のゲンコツは俺まで届かない。


「ムギィーッ!! なんて強力な物理干渉能力だわさ!」

「いや。手で押さえてるだけなんだけど」

「こんなんじゃ、管理局を作ってくれたご先祖様に申し訳がたたないのよさ!!」


 何を言っているんだ、このポンコツは。


 きっとご先祖様とやらは、よほど優秀だったに違いない。

 子孫の方はお察しなのだろう。同情する気にもならんが。


「タイホされるのよさー!! ムキー!」

「まあ、とにかく話はあとで……」

「ふはははは!! ついにみつけたぞ!」


 また、なんか変なのがやってきた。


「時を操り、人心を乱す悪党め! 正義の味方が、お相手いたすっ」


 緑白赤の三色で塗り分けられた、国旗みたいな着物姿。

 そんな格好をした妙な女が逆L字型になった街灯の先端で、逆さまになってぶら下がっていた。


「祖父より学んだ秘伝の忍術に、プラハの妖術師から学んだ秘術をミックスした……超! 絶! 技! イタリアン忍法ニンポーの使い手が、悪を裁くでござるよ!」

「プラハはイタリアの都市じゃない」


 そんなツッコミ入れてる間にも、まわりからなんかゾロゾロ集まってきた。


「やれやれ……この時空結界を作ったのはキミなのか。見たところ、邪界スヴァルトアールヴヘイムの者ではないようだが、いったい何者だ?」

「うるっせえな。おちおち昼寝もしてられねえ。あたしの邪眼が届く範囲で、好き勝手できると思うなよ」

「なんだ、ここは……異世界? さては、あなたが魔王の本体ね!」

「やあ、久垣くん。またやってくれたみたいだね。ん? 私が誰かって? 私の正体が気になるようだね。知りたい? そんなに知りたい? そうか仕方がないなあ。そこまで言うなら、教えてやらないでもないぞ。ただし……」

「パパぁ。あなた、わたちのパパじゃないの?」

「うわーん! 私、追われてるのっ。助けてぇ!! このままだと、宇宙の大王をやっているお父さんが決めた許嫁と結婚させられちゃうの!」

「不確定生物────久垣守、確認。データ収集、開始」


 そんな感じで、あっというまに十人ぐらいだろうか。


 日本刀を持ったセーラー服少女から、ロボットみたいな口調の女の子まで。

 よくわからん連中に、すっかり取り囲まれてしまった。


 これが歴史改変の余波なのだろうか。

 過去に戻ってきてから、まだ五分もたってないぞ。変わりすぎだろ。


「待ってくれ。今ちょっと、忙しいから。先にやらなきゃならないことがあるから、順番……順番に並べよ! 頼むから!!」


 整理券を配りつつ、どうにかなだめて、るる子のところに向かう。


「おい。るる子。動けるだろ。なんで逃げないんだ?」


 反応がない。


「おーい……水取さーん」


 るる子がゆっくりと顔を上げる。


 すごく、不健康な顔だった。


 目の下が真っ黒だ。

 おそらく何日も、ろくに眠っていないのだろう。

 髪は乱れて、すさんだ日々を送っていることは想像にかたくない。


 いったい、こいつに何があったんだ。


「なんで……?」


 かすれた声が、彼女の口から出てきた。


「……どうして、私を助けたの」

「いや、その……車ぶつかりそうだから、今のうちに逃げたほうがいいぞ」

「そのまま……死なせてくれれば、よかったのに……ウウッ、うぅぅ……」


 るる子が地面に顔を伏せて泣き出した。


 こいつ、メンヘラにパワーアップしやがった。

 どうすりゃいいんだ、これ。


 とてつもなく────すごい力を持っているはずの俺なのに。


 どうして、普通に彼女を助けることができないんだ。

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強くてニューゲームでもバッドエンド余裕でした タカハシヤマダ @magicalelec

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