「言葉」を盗む緋色の鳥がなぜ悪霊の遣いと呼ばれるのか

ここではない世界を旅する彼が、静謐な語り口で紡ぐ見聞録。
彼は読者に名前を告げないが、同じ彼が旅して生きた足跡は、
『死者の沼』『雨の国』と本作『鳥たちの楽園』へと続いている。
架空の土地の紀行文であるのに、物悲しいリアリティがある。

大小さまざまな鳥が棲む深い森の奥には、言葉を話す鳥がいる。
嘘かまことかわからない伝聞を頼りに、現地の案内人を雇って、
彼は森へと足を踏み入れ、そして外界から閉ざされた村を知る。
村の人々の言葉は、思いがけず、彼にゆかりのあるそれだった。

彼が「まるで大昔の悲しいおとぎ話だ」と認識する某国の歴史は、
別の人々の間では現在進行形の憎しみの根拠であり続けている。
彼は後年、焚き火の傍らで養い子に、その後悔を語り聞かせる。
だから彼は旅を続けるのだと、憂いのある風情がとても美しい。