余命一年の糸子と、引きこもりの蛍。同級生だった二人は魂を入れ替えた

前向きに楽しく生きて恋人もいるのに病魔に侵された糸子。
大学受験でつまづき、自殺する勢いもなく、自分なんてさっさと死ねばいいのにと考えながら自室で無為に生きる蛍。
糸子の恋人・直希が見つけてきた怪しげな占い師マキ。糸子が電話で話してみたところ、彼女は人と人の魂を入れ替えるという。信じられるわけはないが、直後に何となく連絡を取った蛍に「あなたと替われるものなら替わりたい」と言われた糸子は、蛍を伴ってマキの元を訪れる。そして二人は本当に入れ替わってしまった。
履歴書の空白を咎められバイトもままならない、『蛍』になった糸子。直希と別れるようにと糸子に言われつつも、『糸子』に依存する彼を切り捨てきれない蛍。新しい境遇に苦戦しながら次第に馴染んでいく二人だが……。

入れ替わり物語は、対照的な二人が入れ替わるところに肝がある。その対照性としては「男女」や「年齢差」が定番だが、この物語では死にたくない糸子と死んでもいいという蛍の対比がまず鮮やかだ。そこに直希を巡る関係も綾をなし、どうなることかと最後まで読ませる。
そして、プロットとキャラの心の動きが丁寧に構築されているのも見逃したくない。普通に考えれば明らかに悪役ポジションである糸子の気持ちや行動にもかなり理解と共感ができるし、圧倒的に損な役回りである蛍が怒りも嘆きもせず『糸子』の状況を受け入れる心理も同意まではできなくても納得がいく。