人も、エルフも、獣人も、龍も、ありとあらゆる生き物は死に向かって進んでいく。この物語には、避けがたい運命として常に死の予感が漂っている。生きる長さの違いは、そのまま価値観の違いだ。主人公の永遠とも言える寿命はあらゆるものを置き去りにしていく。恋人や妻さえもこの世から先に去って行く。そしてそれらは英雄的な死でもない。
それでもこの物語は決して後ろ向きな、絶望的な話ではない。あらゆる想いは世代を超え、種族を超え、受け継がれていく。それを虚しい繰り返しにしないため、少しづつ主人公は成長していく。読み手はそれを優しい眼差しで見守ることが出来る。
とても面白かったです。
とても面白かったです……が、あまりにも短いです。
一つ一つの時代の話の内容が短過ぎますし、どれだけ長くても数十年スパンの物語がどれも10話に満たないのは不完全燃焼感が否めません。
途方もなく長い時間を生きる登場人物たちの物語なので早く時間を進めたいのはわかるのですが、せっかく好きになった魅力的なキャラクター達が数話で登場して早々老いて退場していくのはなんともやるせない気持ちになります。
欲を言えば、数年単位ならともかく数十年単位の話ならせめて50話くらいは欲しいところです。
各時代ごとなら100話くらい欲しいですね。(勿論これはただの私の好みの問題なのであまり気にしないでください。)
他の方が仰っていたように、物語がサクサク進むのは先生が感じているような時の流れの早さを表しているという考え方も素敵だとは思うのですが、やはり私はこの世界の物語をもっとじっくり堪能したいと思うので話の内容がこれほどまでに圧縮されているともっとじっくり読みたいのに…と寂しい気持ちになります。
今後また時代が進んで新たな時代に突入することがあればその時はもう少し腰を落ち着けてじっくりと物語を進めていただきたいですね。
異世界転生にありがちな、中世ヨーロッパの世界観をあえて避け、狩猟・採集の時代にフォーカスした、オリジナル性の高い作品です。
もしも文明の発達に魔法が関わっていたら?という「シミュレーションもの」としての完成度も高く、歴史的、文化人類学的に確かな考察に裏打ちされた、説得力のある物語展開が魅力です。
最初は毎日の食料の確保に精一杯で、教育や文化の醸成の余裕がなかった人類が、火魔法による栄養状態の改善や氷魔法によるナマモノの貯蔵を達成し、徐々に勢力を拡大していくあたりが個人的に大好きなくだりです。
魔法を技術として捉え、魔法への理解を深める過程を描いているのもこの作品の特徴で、そこも考察が捗って素晴らしい。
魔法の発達の過程を追体験できるので、なぜ言葉による詠唱が必要なのか?なぜ魔法陣という概念が発達したのか?という理由に非常に納得します。
言霊思想やイデア論なんかも知ってると、より楽しめる内容になっていると思います。
あくまでイチ考察厨としての意見ですが、一口で3度くらい美味しい作品です!!