四部構成、各章ラストシーンが全て響き、しっかり読ませるファンタジー。

主人公の持つ力は、ペテン/推理/付焼刃/人脈、その四つだけ。
口先だけで何でも丸め込める筈もなく、
万事を見通し先が読める訳でもなく、
本当に強い者に剣では勝てないし、
一人で百万人を殺せる友達もいない。
常に追い込まれつつ、持てる力を状況に合わせて駆使し、足掻き、求め続ける第一章。

自堕落な日々から突き落とされる、いわゆる「フレーバー大災害」ではない、ガチの滅亡の危機。
絶対王者の持つ人間味、
善良な端役の持つ反社会性と狂気、
深く知っていた筈の人々さえも知らない顔を持つ。
前章から語り手が変わることで、登場人物を掘り下げると共に、「人を知る」行為自体の重みと意義が突きつけられる第二章。

再び変わった語り手により、前章までの謎が明かされる遠征編。
最前線で戦える語り手により、強者同士の戦闘アクションが至近距離で描かれるバトル展開もさること、
スレ切っていないメインキャラによる、素直な感情の揺らぎ。
始まる前に終わっていた恋より切ない情を描いた第三章。

そして、前章までに得た資産と、膨らみに膨らんだ全ての負債を抱えて始まる、第四章。

極めて大雑把に言えば「笑い有り涙有り、最弱勇者のTS憑依モノ異世界奮闘記」ですが、
技巧にも技量にも優れ、読み始めたらクライマックスも重い展開も軽いノリも、しっかり読ませてきます。
特に各章ごとに練り込まれたラストシーンはいずれも強烈な読後感。
外伝込みで90万文字をさらりと読める、良い長編でした。

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