その他

しつもんコーナー(福岡編)

「ようトシル君。今回はお前に質問状が届いている」

「はあ」

 大隈はタルトを食べながら言い、久保トシルは彼の前に置かれた湯呑みをじっと見ながら答えた。特に湯呑みに興味があるわけではなく、他に見るものがなかったからだ。茶こしをすりぬけた茶葉がゆらゆらと水面を対流しているのが見える。

「どうせ暇だろうから答えてやってくれ。こういう広報活動も我が社のイメージ向上のためには必要なんだ。特にお前ら技術部門機械班は、兵器ばっか作ってる危ない連中だと思われてるからな」

「別にいいと思いますが」

「まあお前が代表したらかえってイメージが悪くなるかもしれんが、それはおれの責任ではない」

「早く始めて下さい」

「えーとな」

 と大隈はタルトをくわえながら用紙をめくった。彼はそれをタルトと呼んでいるのだが、どう見てもロールケーキにしか見えない。

「『好きな食べ物は』」

「水」

「なるほど。あれは確かに良い食材だ。羊羹にも入っている」

 大抵の食べ物は水が入ってる、とトシルは思った。

「次。『血液型はなんですか』。ずいぶん猟奇的な質問だな」

「輸血の経験は無いです」

「おれも無いな。ちなみにAB型らしい。昔調べた」

「暇ですね」

「次行くぞ。『好きな映画のタイトルを教えて下さい。あの宇宙行ってる途中で人類が滅びるやつです』。なんだ、映画なんて見るのか。トシル君も意外と俗だな」

「誰が書いてるんですか、これ」

「知らん。投稿質問には匿名性が保証されている。でないとこんな武器ばっか作ってる会社に、住民の意見なんて集まらんだろ」

「元のタイトルは英語なんで忘れた。西暦22世紀の作品らしいです」

「ふむ。西暦22世紀というと戦前か。平和な時代ならではの名作が沢山揃ってるんだろうなあ。おれは本のほうが好きだが」

「さっきから大隈さんのほうが喋ってませんか」

「仕方ないだろう。お前に任せてはページが埋まらん。こういうのは現場の柔軟な対応力ってものが必要なんだ。ふむ。『トシル君はなぜ人間への興味を失ったのですか』」

「……」

「これ書いたやつは相当甘やかされて育ってるな。理由がなければ人間は人間を好きになると思ってる。ろくでもない。次行こう。ええと、『電気ポンプ銃って、狙って当てるのはどのくらい大変なんですか』」

「そうですね。短銃はたいした加速をしないので、そのぶん軌道がブレにくく精度自体は悪くない。長銃の方が破壊力はあるが、速度が出るぶん発射後の空気抵抗が大きく、弾丸の形状による変動が激しくて狙うのが難しい。ただ、最新モデルのN700系は弾丸の形状に応じて自動で回転を加えられるので、そういう変動を最小限に抑えてくれる。代わりに本体の部品点数が増えてるので生産コストが高いので、『戦時下でも容易に大量生産できる』という当初のコンセプトに反しているという意見もあるらしいが、今更そんな冬戦争時代の話を持ち出すべきじゃない。現代には現代にふさわしい武器の形態があるべきだと自分は思っています」

「うむ。ご苦労」





【作者コメント】

だいぶ昔に何かの特典SS用に書いたけど「作品の雰囲気に合わない」とボツにした原稿。

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横浜駅SF 柞刈湯葉 @yubais

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