530豚 地獄へ向かう者

 かつてのヒュージャックといえば、広大な草原地帯が多くを占め、その風景は圧倒的な美しさと平和さで知られていたはずだ。

 白百合咲き誇る城を中心に、森を囲む草原は輝きを増し、金色の穀物が風に揺れ、野生の花々が色とりどりの花を咲かせる。

 その心地よい香りはサーキスタとの国境沿いからでも十分に感じられ、ヒュージャックの草原は四季折々の美しい風景が楽しめ、訪れる者の心を和ませるものだった。


「ノリがいいわ。焔剣フランベルジュもやる気十分、どこからでも掛かって来いって感じね」


 高位冒険者セカンドランナー火炎浄炎アークフレアは大剣を手に、うっとりとした声で燃え盛る草原を見つける。

 今もなお、見晴らす限りの草原を焼き尽くす力はこの冒険者の力だ。


「でも、残念ねえ。役目は待機なんて」


 野生の生物たちは穏やかに共存し、鳥たちは空高く舞い、ウサギや鹿がのどかな景色を歩いている。かつて、ヒュージャックの人々は自然を尊重し、草原に住む生物たちとの調和を保つことに努めていた。彼らは狩猟や農業を通じて自給自足の生活を営み、草原の恵みを大切にしていた。

 だが、今のヒュージャックは、打ち捨てられた亡国だ。


「我々の目的は、悪魔の牢獄デーモンランドの封印を施すことだ!」


 熱気迸るヒュージャックを目を向け、騎乗するリオットが声を張り上げる。


 リオットによってこの場へ連れられた者たちは、誰もが理解していた。


「ヒュージャックを手にするため立ち上がった祖父ライアーも、悪魔の牢獄デーモンランドの出現とあっては、封印を最優先を動いているに違いない! 確かに祖父はヒュージャックを我が物にしようと愚行に走った! しかし祖父はこの天変地異を前に、栄誉のみを追い求める男ではない!」


 ──自分たちの命なんて、ゴミのように捨てられる戦場がこの先に存在する。

 誰もが言葉にせずとも理解している。迷宮の封印に失敗すれば、ヒュージャックより這い出たモンスターにより、サーキスタの存続すら危うくなるだろう。


 その事実を分かっているからこそ、誰一人として異論の声を挟まない。


「だが私たちは、力不足だ! 出来ることなら私もヒュージャックへ向かいたいが、私たちの身の上では、の邪魔になると判断する!」


 リオットの口ぶちに、猛る男たちが疑問の声を挟んだ。

 であるならば、自分たちの仕事は何なのか、と。


「諸君らの仕事はこの地の守護だ。魔物一体すら、サーキスタ国土を踏ませるな! ここから先、魔境に挑むものは我々サーキスタの友だ!」


 リオットの言葉は──他人任せ、なんかじゃない。俺から提案したことだ。


 

―――――――――――

ペンネームを変更した理由は新作のためです。

まだ発表は出来ないのですがお待ちください。

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豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい 渋谷ふな @damin

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